玉川上水日記

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映画「ヴェロニカ・ゲリン」

ヴェロニカ・ゲリン
2003年 / アメリカ / 監督:ジョエル・シュマッカー / 実在の人物をもとにした映画


英雄を必要とする社会。
【あらすじ】
1996年、アイルランド。麻薬犯罪を追及した実在のジャーナリスト、ヴェロニカ・ゲリンの半生を描いた作品。

【感想】
ヴェロニカ・ゲリンを演じたのは、ロード・オブ・ザ・リングでエルフを演じたケイト・ブランシェット。目が印象的で、童話に出てくる狡賢い狐を思わせる。みょうに迫力があるんだよなあ。写真、右の人です。

麻薬犯罪撲滅のために、裏社会の人間にも臆せずにどんどん切り込んでいく。脅迫や暴行、銃撃も受けるのだけど怯まない。彼女のやっていることはすばらしいし文句のつけようもないことだが、この人はどういう人なのかとも思う。

交通違反を1200回以上やっているという記述を複数のサイトで見た(いずれも個人のブログで情報の出典が明記されてないので、あくまで参考ということで)。映画の中でも、違反回数は出ていないが、度重なる交通違反で裁判所に呼び出されるシーンがある。

麻薬撲滅のために命を賭ける部分と、遵法意識の低さが共存しているのが興味深い。巨悪を追及しているから小さな交通違反など何回やろうが問題ではないということなのかな。彼女は、麻薬撲滅に貢献した英雄として祭り上げられてしまっているので、この部分はあまり描かれない。

交通違反をし続けたおかげで裁判所からの呼び出される。その帰り道なのに、けっこうなスピードで車を飛ばし、なおかつ携帯電話を使っている。で、母親に「収監されなかった。ラッキー!」って電話してる。こらこら。反省という字が辞書にないよ。

誤報道の場面も、何を考えているのかわからないところがある。モンク(修道士)というあだ名の犯罪者を麻薬取引に関与しているかのような内容で報道してしまう。実際に関わっていたのはギリガン(写真右)で、モンクは関係なかったことが後でわかる。ヴェロニカはこの誤りについても、特に反省している様子はない。いずれにしろ犯罪者だからいいじゃねぇか、という感じだ。

手段に誤りがあっても目的さえあっていれば問題ないという性格だろうか。教科書どおりのことを言うなら、その考え方は駄目なんだけども、じゃあふつうの人間に当時のアイルランドの状況を変えられるかといえば難しいと思う。良し悪しは別として、麻薬に汚染されていた社会を救うためには劇薬のようなヴェロニカの行動力が必要だったのかもしれない。

ヴェロニカは麻薬組織によって殺される。しかし、彼女の死によって麻薬撲滅の気運が高まることになった。憲法が改正され、麻薬関与が疑われる者の資産凍結が可能になり、C.A.B(犯罪性資産捜査局)が設立された。そして犯罪発生率は前年と比べ15%も減少した。誰かが犠牲となり英雄にならなければ、これほど劇的な改革はできなかっただろう。彼女の死後に銅像が建立されるが、英雄になるより、一人の子どもの母親、妻として生きられたらと思わずにいられない。


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