玉川上水日記

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映画「SUPER8/スーパーエイト」

SUPER8/スーパーエイト
2011年 / アメリカ / 監督:J・J・エイブラムス / SF


スピルバーグへのラブレター
【あらすじ】
子ども達が自主制作映画を撮っていたら列車事故の現場に遭遇。事故後、街には怪事件が起こりだす。

【感想】ネタバレしてます。
スーパーエイトというタイトルを見たときは、エックスメンみたいな超能力を持つ子ども達が8人いる話かと思いました。力が強い、足が速い、空が飛べるなど。8人目の脇役になると能力も適当になって「先生が次に誰を指すかわかる」などで、8人目は他の能力者と入れ替えが検討されているとか、そういうやつです。どういうやつ?

スーパーエイトという言葉を知りませんでしたがフィルムの規格らしい。「1965年に発表された個人映画向けのムービーフィルムの企画である。コダックが開発した。規格の名称はスーパー8」(ウィキペディア)。劇中ではスーパーエイトという映画祭に出品するために、少年たちが自主制作のゾンビ映画を撮っています。

この子ども達が本当にいい味を出してるんですよねえ。主人公で模型造りが好きなジョー・ラム(ジョエル・コートニー、右から二人目)、火薬狂いのケアリー(ライアン・リー、左から二人目)、すぐに吐くマーティン(ガブリエル・バッソ、一番左)、そしてすばらしいのがハリウッド版ジャイアンのチャールズ(ライリー・グリフィス、一番右)。

この太っちょのチャールズのいかにも映画通ぶったセリフが楽しい。「リハーサルは適当でいい。名演技は本番にとっておけ」とか、駅の場面を撮影中に偶然、列車が入ってくるのを見て「作品のクオリティが上がるぞお!」と興奮する。

「作品に深味が出る」と、もっともらしい理由をつけてアリス(エル・ファニング)をキャスティングするが、実は彼女と仲良くなりたいだけというのがいい。

ところがアリスは、主人公のジョーと両想いに。二人の背後で腕組みポーズをするチャールズ、最高すぎる。ジョーとチャールズの、アリスを巡る恋の鞘当ても微笑ましい。チャールズは、ジョーがもてることに不満たらたらなんですが、最終的には「まあ、俺はデブで不細工で性格悪いから、しかたねぇか!」みたいになる。ジャイアンジャイアンでも、映画版のジャイアン。ちょっといい奴なのだ。

子どもたちはエイブラムス監督の子ども時代なんですよね。DVD特典のインタビューで監督が語っていますが、子ども時代はちょっと変わっていて周囲になじめず苦労したようです。それを救ってくれたのが映画作りだったという。メイキングもいいです。

この映画は子どもと一緒に観られるように作ってあります。過激な暴力、性描写はないです。親と一緒にテレビを観ているときにベッドシーンが出てくるときの気まずさといったらもうないというか、ほとんど監督を呪い殺したくなりますが、そういう心配はない。アリスがゾンビの演技をしているときに、ふざけてジョーに噛み付くという、キスかどうか審議という場面があるぐらい。あれ、たまらん。あんなことされたら惚れる。とにかく微笑ましい。そんな淡い場面があるぐらい。

それぞれの家族愛も良かったですね。息子のゾンビ映画好きを心配して、息子の友だちを否定してしまう父(カイル・チャンドラー)。

「もっとふつうの友だちを作れ」って。ジャイアンだっていいやつだよ!ちょっと嫉妬深くて、わがままで、デブでモテナイけど。悪口しか書いてない。

随所随所に「E.T.」や「未知との遭遇」を思わせる場面がある。監督をはじめスタッフがスピルバーグを好きすぎるんですよね。しかしそれも仕方のない話である。エイブラムスの少年時代、映画祭で優勝して、スピルバーグの事務所から連絡をもらう。スピルバーグが子ども時代に撮った映画を編集してみないかという。

映画を撮ってる人からすれば神様みたいな人からそんな申し出があれば舞い上がらないわけがない。それから数年後、スピルバーグと一緒に仕事をすることになり、別れ際に「実は数年前、あなたの少年時代の‥‥」と言いかけたところ「憶えてるよ。あのときはありがとう」とか言われたらさあ!そんなの惚れるじゃんかー!スピルバーグ、ずるいわー!

こうしてエイブラムスはスピルバーグ先輩、大好きっス!一生ついていくっス!となってしまうわけだが、それも無理からぬこと。ただ、ここまでスピルバーグ色の強い映画となると、やはり「これE.T.っぽいなあ」と思ってしまう。

E.T.未知との遭遇も観ていない子が、E.T.を観るよりも早くスーパーエイトを観た場合、スーパーエイトのほうに強く衝撃を受けることはあるかもしれない。CGもすごいし。作品が他の何かに似ているからといって評価を下げるのは不当で、単体で評価すべきなのだろうか。オリジナリティの問題というのはありそうだけど。

E.T.に比べると、やはりですね、宇宙人がかわいくない。あと人間をムシャムシャ食べます。ここらへんがねえ。まあ、そりゃ、食べることもあるだろうけど今ひとつ共感できないというか。主人公は食べられないんですよね。でも警官や頭にカール巻いたおばちゃんは食べられる。「コイツは食べる。コイツは食べない」この差がなあ。一応、主人公と宇宙人は通じ合ったということなのだろうけど。

宇宙から来るような極めて高度な知性を、それより劣る知性が理解できないというのは十分考えられる。わたしが犬だったとして、今まで信頼していた飼い主にどこかに連れて行かれてお腹を切られたら「えー!おまえ、味方だったんじゃないの?」となる。たとえ、それが犬のための外科手術だったとしても、犬は理解できないかもしれない。

だから、宇宙人が好き勝手やって、その行動が理解できなくてもいいとは思うんですよ。宇宙人の価値観だと、人間とカピバラでも、ほとんど違いはないのかもしれない。いろいろ事情がおありだろうし。ただねえ、ちょっと共感はできないんだよなあ。結局、食べたら駄目じゃんという。E.T.は、主人公との間に友情が築かれてるしね。

この映画は宇宙人を扱ったSFというよりも、タイトルにある「スーパー8」で自主制作映画を撮影した少年たちの冒険、友情、家族愛の物語なんですよね。だからスタンド・バイ・ミーリトル・ランボーズなどが好きな人たちは、この映画を好きになるんじゃないでしょうか。面白かったです。


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