玉川上水日記

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映画「ドライヴ」

ドライヴ
2011年 / アメリカ / 監督:ニコラス・ウィンディング・レフン / サスペンス、犯罪


暴走する思いやり。
【あらすじ】
惚れた人妻を助けるために強盗を手伝ったら大変なことになりました。

【感想】ネタバレしてますが最後までは書いてない。
とても奇妙な話でしたねえ。もっとも奇妙だったのはライアン・ゴズリング演じる主人公の性格でしょうか。一般的なアメリカ人の印象として、陽気でおしゃべりというのがある。だが、この主人公、本当に無口なんですよね。会話が続かないんでハラハラする。本人はまったく気にしてないみたいだけど。ミステリアスで行動原理がわからないところに惹かれますね。

相手の会話に反応して笑うとき、ふつうの人は相手の言葉と同時に笑う。主人公は少し遅れて口元だけで笑う。それも、心から微笑んでいるというより「君の言いたいことはわかった」という返事代わりに微笑んでいるように見える。他の登場人物と会話のテンポが違うし、とても奇妙に映る。奇妙といえば主人公の経歴も不明だし、なにせ名前がないのだった。

昼は車の修理工場、たまにカースタントのバイト、そして強盗の逃がし屋もやっている。冒頭、カーチェイスがあるが、派手さはなく警察無線を傍受しながら巧みに逃げ切る。車の影に隠れて警察車両をやり過ごしたかと思えば、次の瞬間にはアクセルを吹かして逃走。静と動が入り混じった逃げ方が面白い。「5分だけは何があっても待つ」というセリフがかっこいいんですね。善悪は別にして仕事をきっちりやる人が好きなのだよ。

主人公が想いを寄せるアイリーン(キャリー・マリガン)。主人公の隣の部屋に住んでいます。若くして結婚、一児の子持ち、ダンナは刑務所、なかなか大変なのだ。首のところに二本シワが見えますが、こういうのってメイクでわざと入れるのだろうか。自前なのかな。この感じがね、なんだかちょっと苦労しているように見えて良かったのです。そんなとこばっかり見るなという。

主人公とアイリーンがいい雰囲気になってきたところで出所してきた夫シャノン(ブライアン・クランストン、左画像)。これがふつうの映画なら100%暴力夫のはずである。主人公が夫から妻を守るという展開。夫は、DV、DV、ギャンブル、DV、麻薬、DVという具合なのかと思えば、妻にも子どもにも優しく、家族のためになんとか頑張ろうとしているのだった。おかしい、こんなはずでは。わたしの偏見がひどいだけだが。

だが、せっかく更正しようとしてたのに刑務所の中で会った悪い人たちに脅されて再び悪の道へ。主人公はシャノンに誘われて強盗のドライバーを引き受ける。あのー、本当にねえ、この人の行動原理がねえ、よくわからん。惚れた人妻を助けるために強盗のお手伝いというのが、その思いやりの方向は正しいのか。結果、ダンナのシャノンは死亡。アイリーンからビンタをくらう主人公なのだ。

右側の人は陰謀をたくらんだ悪い人。カミソリでの殺し方がものすごいよ。久しぶりに映画を観ていて「ハワワワワワ‥‥」と、なりました。「痛みはなくて死ねるから大丈夫」って、いや、あんたの殺し方、絶対痛いからと思いました。暴力描写が過激です。

で、この主人公は命がけでアイリーンや、その子どもを守るわけですが、だから自分と一緒になれと強要するようなことはしない。それをやったらたちまちホラー映画なのだけど。主題歌の「A Real Hero」(リアルヒーロー)とは主人公のことを表わしているのだろう。これがまさに男の生き様やでー!ということかしら。

だがですよ、これって男の目線からの勝手な思い込みなんじゃないか。アイリーンの目線で物語を見ると、主人公はダンナと一緒に強盗をやってダンナは死亡。なに、わたしに内緒で二人で強盗やってんだという話ですよ。だが、殺し屋に命を狙われたときは主人公が助けてくれる。

でも、男が助けてくれるときって、ちょっとスマートに助けてほしいのだと思う。「お嬢さん、お怪我はありませんか?」みたいな。昭和か。そういう王子様的なのがお好きなんでしょー!あんた方は。そんで悪人のほうも「ちくしょー!おぼえてろよー!」と、たいした怪我もせずに去っていく。そういう爽やかさが望ましい。

ライアンの場合はですね、エレベーターの中で助けてくれはするものの、悪人を引きずり倒すやいなや頭を蹴りつける。頭蓋骨か砕けて、血が飛び散って、脳みそつぶれるまでやるのです。女からしたら「キャー!ステキー!‥‥、ちょ、ちょっとやりすぎ!やりすぎだって!もう、やめて‥‥、ひーとーごーろーしー!」という展開なので「引くわー。アイツ、マジで引くわー。無表情で怖すぎる」となります。

相手は殺し屋なのでライアンがやったことは正しいはずなのだけど、アイリーンにはライアンが突然見せた凶暴さを許容できない。理性ではわかるが感情で許容できない。周りの人に感想を聞いたら、男には評判が良くて女にはあまり良くない。よくわからないけど何か嫌という意見もあった。

男女の付き合いだと、関係が正常ならば男は敵ではない。しかし、関係がこじれたときにその力が女に向かう可能性はある。この映画を観るとき、男はライアンに感情移入するから評判はいいのかもしれない。女はアイリーンに感情移入して観たとき、ライアンの二面性は受け入れがたいのかもしれない。それはライアンの暴力が向かう先が自分になる可能性を無意識にでも考えてしまうからだろうか。

暴力描写が苦手な人以外にはお薦めです。

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