玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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インテリア

▼仕事でお世話になっているYさんの家に呼ばれました。三十代半ばの男性です。新婚家庭というので必死に行くのを拒んでました。あれでしょ、アツアツなんでございましょ?「はい、ダーリン、アーン」「じゃ、ハニー、今度は僕が」みたいなことをやってるんでしょ。ペアルックでディスコでフィーバーでしょ。情報が古い。1980年のカップル情報から更新されていません。誰か新しい情報をください。

とにかく新婚家庭なんて、見たら目がつぶれるような光景が展開されるに違いないよ。おばあちゃんもそう言っていた。そんな魔境みたいなところに行くわけにはいかぬ、と拒んでいた。

でも、Yさんが執拗に誘ってくる。おまけに奥さんに、今日わたしを連れて行くと約束してしまったと言う。なにその勝手な約束。あれか、わたしが新垣結衣のところに行って「今日、あなたを連れて帰ると約束してしまった」と言えば連れて帰れるのか。警察呼ばれる。「頭おかしいの来た」ってなるじゃん。

やだよーって、ごねたけど仕方ない。ちょっとだけお宅を拝見して帰ることになった。道すがら、新婚生活はどうなんですか?って訊いたのだけど「うん」とか「まあ」とかあまり話したがらない。どういうことなんだろうと思っている間に自宅アパートの前に着いた。だが扉を開けようとしない。Yさんが振り返った。「実は‥‥」と言いづらそうに頭をかき、話し出した。

奥さんは、北欧のアンティーク家具が好きで部屋のインテリアを北欧風に統一したいらしい。Yさんはというとインテリアはどうでもいい。部屋に仕事と称した趣味のPCが6台ぐらいある。それに周辺機器もあるから、部屋はケーブルでゴチャゴチャである。これが北欧っぽくないということでケンカになっているそうである。

そりゃそうだ。北欧というか秋葉原である。部屋のコンセプトを「フィンランド」から「ビックカメラ」にすれば、うまくいくと思うよ。両方ともカタカナだし。解決してしまった。天才!「じゃあ、僕はこれで‥‥」って帰ろうとしたけどYさんが逃がしてくれない。

奥さんはPC6台もいらないから処分してほしいと毎日うるさいらしい。もっともである。6台はさすがにねえ、わたしも何台か持ってるけど常に使うのは結局1台だしなあ。壊れたときに予備に1台あれば十分だと思う。

アンティーク家具は雰囲気が良いらしいのだけど、アンティークというぐらいだからちょっとボロくもあるんですね。それが味なのだけど。で、それで統一されていれば綺麗だけど、パソコンやらケーブル、周辺機器が散らかっており、アンティーク家具も汚く見えてしまう。拾ってきたように見えるという。

わたしに求められているのは、怒っている奥さんに「パソコン6台必要ですよ~」と言う係らしい。そんな仕事嫌だよ。なぜそんなうらまれることを。そーゆーの自分たちで解決してくれんか。

で、部屋に通してもらったのですが雰囲気が重い。奥さんは怒っていらっしゃる。招かれざる客だ。わたしが行くって、本当は聞いていないのだろうか。聞いていて、これだけ機嫌が悪いのでしょうか。入って3分で「じゃあ、そろそろこの辺で」って言ったら、Yさんが腕をつかんで離してくれない。仕事では見せない粘りを見せてきますなー。

わたしはYさんにもお世話になってるので「パソコン6台もいらないですね!」とも言いがたい。奥さんはものすごく機嫌が悪い。あれですね、イスラエルパレスチナの国境に立って「どっちが悪いと思う?」って訊かれて「こっち!」って指差したら、逆の国の人に撃たれるとか、そういう仕事なのかなあ。この状況は。そんな仕事ない。

とにかく両方の言い分を整理し、パソコンを半分にすることでとりあえず落ち着いた。共同生活というのは大変ですね。
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