玉川上水日記

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映画「新・悪名」

新・悪名
1962年 / 日本 / 監督:森一生 / ヤクザ映画


【あらすじ】
戦争から帰ってきたら、いろいろ大変なことになっとったよ。

【感想】ネタばれしてません。
河内の暴れ者、八尾の朝吉(勝新太郎)が戦争から帰ってみると、自分は死んだことになっており妻(中村玉緒)は他の男と結婚していた。こういう悲劇は本当にあったんでしょうねえ。でも、勝新がそういう目に遭っているとなぜか笑ってしまうのだった。この人、怒れば怒るほど滑稽で愛らしいというか。

わたしのように終戦直後をまったく知らない人間にとってこういう映画は貴重ですね。闇市のセットも良かった。薄汚れて、でも活気がある様子。

雑炊を売る朝吉さん。女の人には倍よそいます。男はそれなりに。「男はどうでもいいんです」(朝吉 談)

売春の元締めをしている清次(田宮次郎)との対比も面白い。一番上の写真の左側。すらっとしていてスタイルがいい。勝新との殴り合いのシーンは、手足の長さが違うもんだから、ちょっと噛み合ってない感じが笑える。リアルさや残酷さを追求するケンカではなく、すっきり爽やか後腐れなしでよかった。

勝と田宮は戦争前後の価値観を対比させているのかもしれない。その二人が揉めつつも手を取り合っていく様子がいい。なにかというと英語を使う清次に対し、勝がすぐ「英語やめろ」と怒るので面白い。「Who are you?」ぐらいでも怒るからなあ。この前まで敵だったのに、なに英語使ってんだよというのもあるんだよね。清次は無視して英語を使い続けるのだった。

勝が一々お節介なのでニヤニヤしてしまう。この人、本当にいい人なのである。映画「コクリコ坂から」で、友人が戦死しその子を引き取って育てるという話があった。この映画でも勝の戦友が死に、その母親を引き取る場面がある。自分は無職なのに勢いで引き取る。実家の家族からは嫌な顔をされる。当たり前である。無職だけど、どんとこーい!である。困った人だ。

売春の紹介屋みたいなところに体を売りに来た見ず知らずの少女に、勝がお金を渡して帰らせる場面がある。とにかく親切でお節介なのである。人と人との関わり合いの濃密さをうかがわせる。

「昔は良かった」という人たちは、現代の無関心さの揺り戻しとしてこの濃密さを好むのかもしれない。そんなに良かったことばかりではなく、つらい時代だったと思うのだけど。「金はなくてもなんとかなるぜ。気にすんな!」という雰囲気に救いがある。この明るさは、敗戦でいろいろなものを失ってしまったから、どうせこれ以上失うものはないんだという強さだろうか。明るい気分になります。

製作時期が今から50年ぐらい前なので、もう価値観やらなにやらいろいろ違ってきてるんですね。ここまでずれるとまたちょっと面白い。ギャオで無料で観られます。(期間限定)

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