玉川上水日記

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映画「イングロリアス・バスターズ」

イングロリアス・バスターズ
2009年 / アメリカ・ドイツ / 監督:クエンティン・タランティーノ / コメディ


【あらすじ】
第二次大戦中、ドイツ占領下にあるフランス。秘密部隊イングロリアス・バスターズナチス壊滅のために活動していた。一方、ユダヤ人の映画館主ショシャナ(メラニー・ロラン)も、ナチス映画上映会の夜、ナチスに対する復讐を果たそうとしていた。

【感想】ネタばれしてます。
イングロリアス・バスターズという秘密部隊と映画館主ショシャナのパートに分かれて物語が進行します。

イングロリアス・バスターズというのはちょっと頭のおかしい秘密部隊で、ユダヤアメリカ人を中心に構成されています。殺したナチスの頭の皮をはいで集めますよ。

「一人百枚ずつ集めてこい!」とリーダーがおっしゃっています。なんだ、その地獄のノルマ。ブラック企業でも、もうちょっとノルマは緩い。メンバーは10人ぐらいいたと思うのですがリーダーのレイン中尉(ブラッド・ピット)と「ユダヤの熊」とあだ名されるドニー(イーライ・ロス)ぐらいしか憶えてない。

ドニーさん登場。ナチスをバットでボコボコにするのが趣味の人です。「のび太~。新しいバット買ったから試させろ~」というジャイアンの名ゼリフを思い出したよ。リアルジャイアン。誰か、バットが野球の道具ということを教えてあげて!

イングロリアス・バスターズ側で目立つのはこの人ぐらいなんですよね。ナチス側の面白い人はこの人。
ナチス親衛隊少佐ヘルシュトローム(アウグスト・ディール)。居酒屋のシーンで大活躍。抜群に頭が切れる。

ただ、もう一人圧倒的な存在感を放つナチス親衛隊大佐ハンス・ランダ(クリストフ・ヴァルツ)とキャラがかぶってる気がするんだよねえ。二人とも「頭いい、意地悪、しつこそう」三拍子揃ったキャラなのであるよ。


この映画の主役といっても過言ではないハンス・ランダ大佐。主役以上に目立ってました。この人の会話シーンはどれも面白いですね。学校では風紀委員とかやってそう。

イングロリアス・バスターズナチスを残酷に殺すシーンがあります。ドニーがバットで捕虜のドイツ人将校の頭をかち割るシーンや、鍵のかかった劇場でドイツ人をマシンガンで虐殺するシーンもそうだ。これってガス室の暗喩なのだろうか。

なんのためにこういったシーンを撮影したのかを考えた。一部のユダヤ人にしてみればドイツ人が殺される場面は快感かもしれない。しかし、相手は抵抗せず、一方的な虐殺なんですよね。そこが不思議な気がした。虐殺って、観ていて気持ちがいいものだろうか?

時代劇などでヒーローが悪者を倒すとき、相手は必ず武器を持ってヒーローに切りかかってくる。それをバッサバッサと斬っていくからいい。でも、この映画は抵抗せずに逃げようとするドイツ人を銃で撃ちまくっている。相手が攻撃してくるから撃つという大義がない。

虐殺という最悪のことをしたナチスに対し、虐殺で報いたイングロリアス・バスターズであるものの、両方とも劇場の爆発で死んでしまう。暴力を用いるものは両方とも最低であるということなのだろうか。

面白いのは、完全な被害者ともいえる映画館主ショシャナですら死んでいる。彼女は子ども時代にナチスに家族を皆殺しにされている。復讐する理由も正当だし、彼女だけは生き延びさせてもいいように思う。しかし、映画館を炎上させてドイツ人を皆殺しにしようと企てて死亡する。これも復讐のためとはいえ暴力を用いた報いということだろうか。

ランダ大佐とレイン中尉が取引をする場面も印象的だった。ランダ大佐と部下の通信兵は最後にレイン中尉に降伏する。このとき、レイン中尉はためらいなく通信兵を射殺する。で、ランダ大佐の額にナチスの鉤十字の印をナイフで刻む。そのかっこうでずっと生きていけということなのだけど。

ランダ大佐とレイン中尉は、この映画の中でもっとも極悪非道な二人である。その二人が生きのびて映画は終わる。暴力に報いがあるなら、この二人こそ死ぬべきなのに。殺される理由が乏しい通信兵はゴミのように殺され、居酒屋でも罪の無い女性店員が巻き込まれて死んでいた。一般人が無慈悲に死んでいる。そして、もっとも悪いやつらが生き残った。戦争なんてそんなくだらないものだという、タランティーノの皮肉なのかもしれない。


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