玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

飲み会

▼先週末は花火大会のあとに飲み会があった。わたしの隣の男性が、並んでいた料理を携帯カメラで撮影し、ツイッターにアップしている。もう、そういった行為はごく当たり前のことだ。

ツイッターやってるんですか?」と、その場の誰かが彼に訊ねた。「うん。表現活動だからね」と、彼は答えた。ひょ、ひょ、ひょーげんかつどう!?ううむ、そうか。たしかに芭蕉ツイッターをやったならば、五七五の十七文字で無常も自然の美しさも表せるだろう。

しかし「今日の晩御飯はこれだよー!」みたいなのが表現活動にあたるのか。まして、他人になんの衒(てら)いもなく表現活動と言ってしまう精神力の強靭さよ。彼とは初対面だったので、何か言うでもなく、かといってそのまま聞いていると少し笑ってしまいそうだった。それは失礼である。だから、なんとか笑いをこらえようと、大きく口を開けたまま、天井でゆったりと空気をかきまぜるシーリングファンをにらんでいた。笑いをこらえるときにはわりと有効。

傍から見ると、白目をむいて大口を開けており、気絶しそこねた人である。その姿勢でなんとか堪えた。しかし、嫌な飲み会である。表現活動とのたまう人と、気絶しそこねた人が並んでいるのだから。

でも、その彼がいろいろなことを言うから面白かった。「ワインの選び方は、いい男の選び方と同じだよ」などと言う。わたしはちょっと具合が悪くなった。大口を開けて天井をにらんでいるだけでは、まだ笑ってしまいそうなので、さらに心の中で般若心経を唱えることで外界の一切の音を遮断することに成功した。

わたしがひねくれているだけかもしれない。振り返ってみれば、そんなにおかしくもない。それにその店の美味しいメニューをよく知っており、いい人だった。ただ、ちょっとハリウッド的な言い回しが好きな人なのだ。「人間には二種類の人間がいる。一つは‥‥」とか「いいニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」とか。

バカヤロウ、と言ってしまいそうである。でも、嫌いじゃないんです。本当に。仲良くなってメールアドレスも交換した。登録するときに「ハリウッド憧れバカ」と入れそうになったが、ちゃんと名前を入れた。親しくなったら、そう呼ぼう。

今は心の中だけで呼んでます。