玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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痛風日記

▼三日ほど前に痛風が出てしまいました。痛風とは、高尿酸血症を原因とした関節炎をきたす疾患で、ようするに痛くて死にそうになる病気。

具体的に言うと、足の親指付け根あたりが真っ赤に腫れて、布団がかすっただけでも痛いし、足の角度を少し変えただけでも痛い。「痛くて死ぬ!いた死!いた死する!」と、いい大人が悶えるほど痛い病気です。今回、痛風が出たのは右足首でした。痛風初心者はたいてい足の親指付け根です。わたしほどの痛風上級者ともなると、足首に出たりします。さすが!

痛風はきちんと治療をしていれば、日常生活もふつうに送れます。わたしは遺伝的に尿酸値が高い体質、つまり痛風エリートなので継続的な観察が必要なのです。しかし、ここ何年かは調子が良かったので薬を飲まずに好き放題やったところ、こういうことになってしまいました。

本当にね、動けなくなってしまい困りました。痛くて立てません。トイレに行くにも四つん這いだし、食事に行くのも四つん這い、屈辱的である。二足歩行とはそもそも道具を両手で使うために発達したものですが、それとはべつに人の尊厳みたいなものもあるんですね。四つん這いの低い視点から周囲を見上げると、ずいぶんと物悲しい気持ちになりました。

「みくだす」とか「みおろす」という言葉がありますが、本当に視線が低いというのは惨めで、自分が人として半人前のような気持ちになるものです。車椅子などを使われている方は、ひょっとして常にこういう感情と向きあっているのだろうかと思いました。

で、症状が出た木曜は近所の医者が軒並み休みという悲しい状況。是非、医療機関の皆様は周辺とかぶらないように「あそこは木休みだから、うちは金休みにするか」などしてほしい。そこんとこお願いしたいものである。示し合わせて休みとか、なにそのチームワーク。

金曜になって痛みがひくどころか、ますます足が赤黒く腫れあがってきた。医者に電話して、痛み止めを出してもらえないかとお願いするのだけど、診察をしないと出してもらえないのである。いや、診察を受けにそこまで行くことができないから、家の人間が痛み止めを受け取って、それが効いたら診察に行くからといっても駄目である。

まあ、これはごねても仕方のないことなのでしょう。救急車を呼ぶほどのことでもないし、2、3日のたうちまわっていることにする。親は仕事に行き、わたしは家でゴロンゴロンしておりました。会社には連絡済みなので問題は特にない。ただ、ものすごく痛いのである。普通は、痛風は症状が出て炎症を抑える薬を飲めば、4,5時間でなんとか歩けるようにはなります。しかし、症状が出てから一日たってもまったく良くはならない。

薬がない今、わたしにできることは何か。足が腫れあがってジンジンと痛むのをなんとかやわらげたい。たしか、玉ねぎとお茶にはクェルセチンという炎症を抑える成分が入っている。これを摂取すれば理屈の上ではなんとかなるはずである。台所まで這っていき、玉ねぎを見つけた。これを水にさらしてはクェルセチンが流れ出すので、その場で皮をむいて生で食べる。

玉ねぎを生で食べるとものすごくまずい。当たり前である。なかなか食べられないので困った。悪役商会八名信夫さんが、青汁の宣伝で「まずい!もういっぱーい!」とやっていたのを思い出した。わたしも真似をして「まずい!もう一口!」と玉ねぎをかじったが、瀕死で何をやっているのか。誰も見ていないのに。痛みは人をおかしくする。

苦いのを我慢して、なんとか丸々一個食べてその場で寝てしまう。体が弱っているせいか、痛みを感じつつも、ものすごく眠いのである。意識を取り戻したのだけど気持ちが悪い。玉ねぎのせいである。「理屈の上では、これで良くなるはず‥‥」と自分に言い聞かせたが、そんなに短時間に良くはならなかった。あくまで理屈の上だった。

今度は尿酸を排出するのと炎症を抑えるためにお茶を飲もうと思うのだけど、立つことができないのでお茶を淹れられない。お湯も沸かせないし、ポットが置いてあるところにも手が届かない。しかたがないので、お茶を食べることにする。しかし、お茶の缶は食器棚に入れてあり、その高さは180センチぐらいはある。まず食器棚の戸を開けなければ、缶を取り出せない。

どうしたもんだろうと食器棚の下で茫然とした。で、思いついたのだけど箸をセロハンテープで繋ぎ合わせて棒状にし、お茶の缶を落とせばよい。またまた這ってセロハンテープを取りに移動。そして疲れて寝る。起きて、セロハンテープを取り、食器棚前まで移動。箸を繋ぎ合わせて棒を作ることに成功。

うまいこと棒を操作し、食器棚を開けたときの感動。で、140センチぐらいの棒を操って、缶を落とそうとするのですがなかなか落ちないのである。それどころか缶が奥に行ってしまう。箸を繋げた棒は、自分の重みで折れそうになる。30分ほど試行錯誤し、棒を輪ゴムで補強して先端にフックをつけたような構造にし、やっと缶を落とすことに成功したのである。

缶に棒を引っ掛けて手前に引くと手応えを感じた。ただ、わたしの座っている位置からはまったく見えないので、何がどうなっているのかはわからない。成功したのだろうかと、ぼんやりした頭で思っていたら、お茶の缶が落下してきた。あっと思う間もなく、痛風の足に激突したのである。

いや、本当、死ぬ。いた死する。当たった瞬間に、心臓がしびれた。本当に痛いときは声が出ないものである。しばらくしてようやっとホロリと涙が出て、声が出た。なぜか「テヒョヒョヒョヒョヒョ‥‥」と言っていた。ずいぶん情けない声だが、大変なときほど案外そんな間抜けな声が出るのかもしれない。

これからは映画で撃たれたりしたときは「テヒョヒョヒョヒョヒョ‥‥」と言うといいかもしれません。それは真実の声なのです。ふざけているわけではない。足を押さえてテヒョテヒョうめいていたが、痛さが限界に来たのか、またしても寝る。目が覚めて、お茶を噎せながら食べて、またしても寝る。

ペットボトルの水を大量に飲んだり、お茶をバリバリ食べたり、そして寝ることを繰り返して夜になる。すると、足の痛みがひいてきてだいぶ楽になりました。痛みでボーっとしていたものの、金曜の夜には映画の感想を書いているんですよね。よく書けたなあ。書いてる場合じゃないのに。

今もまだ足は腫れてますが、7割ぐらいは回復したと思います。今回は薬なしで乗り切るという、わりと珍しい経験ができたので良かったです。明日、ちゃんと医者に行こう。そうそう、あとでネットで調べたのですが玉ねぎを生で食べると胃を痛めることがあるらしいのでやらないほうがよさそうです。ただ、痛風の民間療法として玉ねぎを食べるという方法もあるようです。

まあ、そもそも医者に行って薬をもらっていればこんなことには。できればテヒョテヒョ言わずに人生を送りたいものですなあ!

最後に急に偉そうになった。