玉川上水日記

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映画「バティニョールおじさん」

・バティニョールおじさん
2002年 / フランス・ドイツ / 監督:ジェラール・ジュニョ / 戦争を舞台にした映画 


【あらすじ】 ネタバレしてます。
1942年、ナチス占領下のフランス。肉屋を営んでいたフランス人のバティニョール(ジェラール・ジュニョ)だが、偶然にも隣家のユダヤバーンスタイン一家の摘発に関わってしまう。娘の婚約者がうまくナチスに取り入り、ユダヤ人一家が住んでいたアパートをもらうことになる。だが、そこへ摘発を逃れたバーンスタインの子シモン(ジュール・シトリュク)が帰ってきてしまう。バティニョールはシモンをスイスへ逃がすことを決意する。

【感想】
バティニョールを演じているジェラール・ジュニョが本当にいいんですね。この人、まったく普通の太っちょのおじさんにしか見えない。本来は、たぶんそんなに正義感が強いほうでもないのだと思う。一人で困ってるシモンに、明日の朝には出てってね。俺は知らん。みたいな感じだし。本人はただ静かに肉屋をやっていたいだけで、ナチスにもユダヤ人にも関わりたくないのだろう。

1942年のフランスはドイツに占領されていてナチスが幅をきかせている。フランス人の中には、ナチスにうまく取り入っている者もいる。この前まで敵同士だったのに、バティニョールにしてみればおもしろくない。ただ、ナチスから注文があれば逆らえないから応じる。反感は持っているけど先頭に立って行動を起こすわけでもない。そんなどこにでもいそうな感じが良かった。

バティニョールは正義感というより、巻き込まれたからしかたなくというかんじで、ユダヤ人の少年シモンをスイスに逃がすことを決意する。最初はイヤイヤだったが、シモンと行動をともにするうちにバティニョール自身の心にも変化が訪れる。警察の取調べを受けるシーンで、まるでユダヤ人の苦しみが乗り移ったかのようなバティニョールの言動には心を打たれるものがありました。

DVD特典のインタビューで、あえて重くしないように撮ったとジェラール・ジュニョが語っているように、映画そのものは悲惨なテーマを扱っていながら、とても喜劇的に撮られている。重苦しく悲劇的に撮ろうと思えばいくらでもそうできるテーマである。陰惨なイメージのないホロコースト映画というのは珍しいかもしれない。

戦時下でありながらも子どもは腕白で、大人もどこか間が抜けていて憎めなくて、緊迫しているはずなのにどこかのんびりとしている。そしてバティニョールという、ごくありふれた人の勇気。太っちょの勇気。いい映画でした。ジェラール・ジュニョの「コーラス」もいい作品だったなあ。