玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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金環日蝕

▼金環日蝕でしたね。なんだかずいぶんテレビが取り上げていて、その報道を見ていたら「あーもー、イヤ!そっとしといてくれたら見るのに。君らが無理矢理盛り上げようとするから、ぼかぁ見ないよ!」という気分になった。スカイツリーの報道もそんな感じですが。

だもんで日蝕メガネも買ってません。そもそも太陽の事をそんなに知らないのだ。そんなニワカなわたしが金環日蝕だからといって騒いでいいものか。インディーズバンドが急にブレイクしたからといって「あの曲いいよねー。前からいいと思ってた」と言うのと同じではないか。太陽さんに申し訳ない。売れる前から太陽さんを応援していたファンの方々にも申し訳ない。ファンて誰だ。

▼お世話になっている会社に日蝕の前日に行った。隣席のTさんと話した。「明日、朝、みんなで会社の屋上で日蝕観ようって思ってるんですけど、しゅんさん(わたしのこと)も来ませんか?」と言う。ミーハーである。ニワカ太陽ファンである。とはいえ、こういうときに素直に「行く」と言えるのが人として美しい。

でも、朝起きるのが面倒だったので断ってしまった。午前7時半に会社に着くには6時には家を出なければならない。ということは5時ちょっと過ぎに起きることになる。彼女は「全国各地で見られるのは平安時代以来なのにー」と文句を言っていた。こっちは昨晩何を食べたかも怪しいのに、そんな昔のことを持ち出されてもな。

なので日蝕を会社まで観に行く気はなかった。家で観てもいいわけだし。だが、チームワークというのはこういうことで生まれるかもしれないと思い直した。日蝕を見るなど些細なことだけど、そういう小さなことの積み重ねが意味を持つのではないか。

当日、早起きして家を出た。午前7時過ぎに会社に着いた。金環日蝕は7時20分から30分ぐらいまでに起こるらしい。空は残念なことに曇っていてよく見えない。そろそろ日蝕が始まろうかという時間だが誰も来ない。

なんらかの理由で中止になったのだろうか。屋上に上がれば誰かいるかと思ったが、そもそも鍵が開いていなかった。ビルを出れば通勤途中の人がそこかしこで空を見上げていた。だが空は曇っていた。わたしの心のように。

うーむ。みんなで一緒に観ようって言ったじゃん!なんかよくわからないけど平安時代以来なんじゃないのかね!表に出てきたドトールの店員さんが日蝕メガネを貸してくれました。「あれ?雲であんまり観えませんね」「そうですね」それがわたしの日蝕観測でした。ドトールの店員さんありがとう。これによってドトール店員とのチームワークは醸成された。以後は会社ではなくドトールに通うことにします。

わたしは午後に会社に寄る予定だった。朝、わたしがいるのでTさんが驚いたようだった。

「しゅんさん、なんでいるんですか?」

日蝕を観ようと思って‥‥。みんなで日蝕を観ようとね!」

「えー!みんな早起きが嫌だっていうから中止したんですよー」

「そうなの?だってそんな連絡なかったから」

「だって、しゅんさん来ないって言うから‥‥」

「言ったね」

「うん」

「行くって言ってたら、中止の連絡もらえたのにね」

「うん。変なとこで見栄張るから」

「まあ、ほら、いきなり『来たよ!』みたいなほうが面白いかと思って」

「そう‥‥ですか?」

「‥‥まあね。べつに面白くもないか。もう今日は話しかけないでね」

「まあまあ、そんなにすねないで。日蝕観れました?」

「いや、なんだか曇っててあんまりよく観えなかった。Tさんはどうだったの?」

「すごく奇麗でした!写真も撮ったし」

「へー。良かったねー。あれ?じゃあ結局家に居たほうがよかったってことかな」

「そうなりますかね‥‥。しゅんさん、何時に起きたんですか?」

「5時」

「5時!?ああ、それはそれは。フフフ‥‥。がんばって5時に起きて、会社来たら一人で、日蝕も観られなかったんですかー!

あわれ!あわれな人いた!

ねー、ナミちゃん(同僚の女の子)、ここにすごくかわいそうな人いたー!」

「鬼か、おまえ」

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