玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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ギロチン

▼今年の連休は雨が多い。気分を浮き立たせるためになにか季節の物でもと、初鰹とタケノコの刺身を食べました。戻り鰹のほうが脂が乗っているといいますが、今年の初鰹は脂が乗っていておいしかったです。タケノコの刺身は、ほろ苦さが良かった。 日本酒に合いそうな味ですね。などと下戸のわたしが。ビール一杯で気を失いそうになるわたしが。飲める人がうらやましい。

 

▼以前に勤めていた会社へ雑用をしに行く。連休中でも全員が休んでいるわけではなく、出社している人たちもいた。以前の同僚のOさんがいたので挨拶。 「お!働いとるねー、労働者諸君!世間は休みだというのに感心感心。それでこそ企業の歯車!」 いきなりアメを眉間に投げつけられた。暴力は美しくない。ネットに投稿してやる。暴力ブラック企業として炎上させてやる。

 

 

▼眉間にアメをぶつけられたので退社。もう二度とあそこには行くまい。蛮族の巣だ。今、仕事を請けている会社へ。仕事もそこそこに食事へ。 連休中は、ランチをやっているところがチェーン店のカフェぐらいしかない。店内は思いのほか混みあっていた。偶然、総務のMさんと隣同士になった。まったく違う仕事なので接点はないし、話したこともほとんどない。顔を知っている程度である。 Mさんは痩せ型の長い黒髪の女性。あまり感情を表に出さないもの静かな人に見えた。彼女が読んでいたのはフランス革命について書かれた本だった。フランス革命というとマリー・アントワネットやルイ16世が真っ先に思い浮かぶが、どうもギロチンのイメージが強い。 少しギロチンの話をした。斬首だと首を切りそこなうこともあり、刑を受ける者の苦痛を増してしまうことがあるから少しでも苦痛をなくすためギロチンが取り入れられたと聞いたことがある。見た目の残虐さに反して人道的な見地からの導入だったのかもしれない。しかし、ギロチンの導入により効率性が増したため、かえって大量に処刑が行われるようになったとも聞く。 わたしはギロチンの開発者はギヨタンだと思っていた。しかし、Mさんによると開発者はアントワーヌ・ルイであり、議会にギロチンの採用を提案したのがギヨタンだと教えてもらった。なにそのギロチン知識。使いようあるかな。 Mさんは中世の拷問や処刑の道具にかなり詳しかった。そこから怖い拷問道具の話になった。わたしがもっとも印象的に残っているのは、ケーブルテレビで観た「ファラリスの雄牛」である。 ファラリスの雄牛とは、古代ギリシアで設計された拷問および処刑のための装置。アテネの真鍮鋳物師であったペリロスはすべて真鍮で雄牛を鋳造し、中を空洞にして脇に扉をつけた。有罪となったものは、雄牛の中に閉じ込められ、その下で火が焚かれる。真鍮は黄金色になるまで熱せられ、中の人間を炙り殺す。(ウィキペディアより抜粋) 焼かれている人間の悲鳴が牛の雄たけびのように聞こえる仕組みになっている。これを作ったペリロスは、献上した僭主ファラリスに「おまえ、ちょっとそこに入ってみ」と言われ、入った後にフタを閉められて焼き殺されてしまう。ドジッ子にもほどがある。こわー。 「もっとも怖い処刑の道具はファラリスの雄牛かも」とMさんに言った。するとMさんの声が突然大きくなった。「そうなんです!やっぱり、拷問といえばファラリスの雄牛か鉄の処女ですよね!」周りに人がたくさんいるのに。もの静かに見えたのは間違いだったのか。 それからMさんはらんらんと目を輝かせながら、ファラリスの雄牛の魅力について語っていた。変なスイッチを入れてしまったのか? まあ、あの、人は何事にもこだわりを持ったほうがいいとは思いますが、ちょっとだけね、声が大きすぎやしないか。 Mさんは「どんな拷問が好きですか?」と畳みかけてくる。好きなフルーツをきく感じできかれてもな。ないよ、好きな拷問。普通の人は嫌いなんだよ。これはわたしは周囲の人にどう思われているのだろう。いや、この状況こそが拷問ではないか。周りの視線が痛い。 Mさんが言うには、今までは彼女の趣味を語っても周りの人に引かれてしまい、なかなか素直に趣味について語れなかったそうである。ちなみにMさんによると今もギロチンは受注生産が行われているという。インテリアに使うのでしょうか。価格は「時価」だそうな。 寿司屋なの?