玉川上水日記

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映画「小さな命が呼ぶとき」

小さな命が呼ぶとき 2010年 / アメリカ / 監督:トム・ボーン / 実話に基づいた映画

手段を選ばぬエゴイスト×孤高の偏屈研究者 【あらすじ】 3人の子どもを持つエリートビジネスマンのジョン・クラウリー(ブレンダン・フレイザー)。しかし、子供たちのうち二人はポンペ病という難病に罹っていた。この病気に罹った子どもは、長くても9年しか生きられないという。8歳の娘メーガン、6歳の息子パトリック、二人に残された時間はあまりにも少なかった。ジョンは、ポンペ病の研究者ロバート・ストーンヒル博士(ハリソン・フォード)の元を訪れ、研究の資金提供を申し出る。 ポンペ病とは、生まれつきグリコーゲンを分解する酵素がない、または少ないためにグリコーゲンを分解できず、細胞の中にあるライソゾームという袋にグリコーゲンが蓄積し、筋肉の働きが悪くなってしまう難病です。 【感想】 ネタバレしてます。 実話を元にしているということですが、とにかく主人公ジョンの行動力に圧倒されます。ハムナプトラの人です。今回はピラミッドとかミイラは出ません。 はたして自分の子どもが病気になったとして、ここまで行動できる人はいるだろうか。

ポンペ病の薬がいつまでたってもできないので、研究者に直接会いに来たジョンさん(右)。そして「俺ちゃんは天才なんだけど、大学は研究費くれないし研究できんのよねー。もうアイツら、ほんとバカ!」で、おかんむりのストーンヒル博士(左)。 博士が言うには少なくとも50万ドルはかかるという新薬開発の研究費、ジョンさんは資金提供を申し出る。この時点で50万ドル調達の目処などまったくない。えらいこっちゃ。今まで順調だった仕事も退職し、まったく知らない分野で博士と会社設立という、それはハムナプトラとは違うが静かな大冒険に見える。 ストーンヒル博士というのは研究者にありがちな偏屈で頑固、一風変わった人です。その代わりに自分の理論に絶対の自信を持っている。だが、その頑固な性格のせいで同業者の受けは良くない。というか最悪であり「アイツとだけは仕事したくねー」と思われている。たぶん。 このストーンヒル博士もなかなかの野心家で、ここで一旗上げて周りを見返してやる!みたいなのがアリアリでよいです。この映画は専門知識を持った人間との対峙がとてもよく描かれています。 どの業界でもそうですが専門知識を持った人たち(研究者、技術者、職人など)と仕事をするのは大変です。最初は彼らの言ってることがまったくわからないし、彼らが持っている価値観もわかりません。ジョンも必死で勉強するも専門知識のなさで苦しむのですが、とにかく資金調達をしなければならない。 で、それには投資先であるベンチャーキャピタルを説得できるようなプレゼンをしなければならない。でも博士は非協力的である。「アイツらはわしの友だちだから大丈夫。わしは釣りに行く!」といって真面目に準備しようともしない。 博士は理論は一流なんですけどプレゼンとかからきしなんですよね。いくらベンチャーキャピタルで審査をしている科学者が知り合いといっても、そんなにうまくは行かない。細部を突っ込まれるとすぐ怒り出すし。優れた研究者が人格的にも優れているかというとまったくそんなことはなくて、もうこの人はちょっと大変な人である。怒って席を立ってしまう。「わ、わしゃ、帰る!プンスカ!」である。ジョンさんも大変である。 でも本当にこういった研究に投資させるのは困難なことだ。そもそも研究自体が複雑であるため、それが利益を確保できるかという判断をできる人が少ない。科学者を揃えたベンチャーキャピタルでないと、この事業の将来性を評価することができない。それが先駆的研究であるほど難しさは増す。

ジョンさん「とにかく金がないんだよ」 博士「ワシャ、知らん。なんとかしろ」の図。 10分に1回ぐらいは大喧嘩してる気がする。いろいろ大変なのです。 とりあえず出資させることに成功したものの、研究がそんなに速やかに進むわけもなくすぐに資金難に陥る。この危機を回避し研究を継続するためにジョンは会社の売却を決断する。これ、共同経営者であるストーンヒル博士には事後報告なんですよね。もう、まったくの無茶なんだけど研究継続のためにはこの方法しかない。ここらへん、ひどいというかすごいというか、すさまじいですね。 買収先の会社に就職した二人ですが、ここでは研究は4チームに分かれて行われています。これですと4タイプ同時に開発はすすみ、どれか開発できるかもしれないが時間がかかってしまう。そこで、4つの開発法を審査し、もっとも有望な開発に人材と資金を集中し選抜チームを作ることを提案する。 彼は素人なのですが、素人だからこその視点がすばらしい。研究者同士にも相性があって、アイツの下では働きたくないとか、情報交換するのは嫌だとか、その軋轢が研究を遅らせている。その問題点を見抜いている。 また、研究者が素人の上司を持つのを嫌がるという問題にも直面する。ジョンは研究知識については研究者に及ぶべくもない。でもなにより余命がほとんどない子どもを持った親の強さ、会社から新薬のサンプルを盗み出してでも自分の子に投与したいという情熱、これが彼の一番の武器だったのだと思います。 ストーンヒル博士はその性格から他の研究員と一緒に仕事をするのが難しいためか、選抜チームには選ばれない。博士は、選抜チームから自分を外したジョンを「裏切り者」と罵る。でも、最後はジョンを助けてくれるのだけど。それは彼が自分の子どもの命を救いたいという、それだけのために行動しているのがわかっていたからだと思う。 この映画では新薬開発に対する投資会社や製薬会社が少し悪く描かれすぎているように感じた。彼らとて利益を上げなければ経営ができない。経営できなければ投資もできず、それでは新薬が開発されなくなってしまう。 ポンペ病にかかる確率は4万人に1人と、製薬会社のサイトにありました。そういったごく珍しい病気ですと、莫大な研究費をかけて開発したにもかかわらず利益があがらないことがある。だから、どうやって収益を確保するか証明しなければならない。 ジョンが製薬会社にポンペ病に関する死亡許容率について訊ねられるシーンがある。25%の患者が死んだとしても、残りの患者が一生この薬を使い続ける限り元はとれると説明していたと思います。自分の子どもが患者でありながら、こういった説明はつらいだろうと想像できる。新薬開発というのはきれいごとではできないのだろう。でも、その底の部分には人の命を救いたいという情熱を感じた。 ハリソン・フォードの頑固っぷり、ブレンダン・フレイザーのすさまじい行動力が見どころ。そして新薬開発もそうですが、その前に資金調達という厳しい戦いがあるんですね。観て楽しめるかは人によりますが、お薦めです。  
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