玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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会社を辞める

向田邦子の「父の詫び状」が目にとまったので読んでみた。何度か読んでいたが内容はすっかり忘れていた。教科書に載っていたおぼえがある。あらためて読んでみたけど10分もあれば読める短編なんですね。戦後の雰囲気が伝わってくる。

雨の日に来客があったので、そのお客の靴に古新聞を詰めたら御真影が載っていて怒られたとか。御真影とは天皇陛下の写真です。わたしの母が通った小学校では、式などをやる講堂の演壇の後ろに観音開きの棚があり、その扉を開けると空の額縁が入っていたそうです。おそらく戦中は天皇陛下御真影があったのではないかということでした。

▼なんでしょうか、このいつもとは違う雰囲気。特に何もないけど。

▼取引先と打ち合わせ。30歳前後の男性である。打ち合わせ自体はすぐに終わった。その後、少し雑談。「会社辞めようと思ってんですけど、どうでしょうか?」と、いきなり言われて驚く。あれー、20分ばかし前に会ったばかりなのに。唐突だね。「うん、辞めたほうがいいよ!君の事は何も知らないけど!」って即答してみたい。

まあ、いろいろおつらいのでしょうねえ。いくらわたしが適当な人間でも「辞めたほうがいいよ。他にいい会社はたくさんある」とも言えない。年に、2、3回こういった「辞めようかどうしようか迷ってる」という話を聞きますが、どう答えればいいんでしょうか。

こういう質問や人間関係の悩みには正しい答えはないんでしょうねえ。でも、彼が今、冷静な判断をできる状態にもないように思う。辞めようかと思うけどどうでしょうと訊く人は、辞めたい人なんですよね。もし、仕事が充実し周囲に評価されてたら、そんな人は辞めようと思うんだけどという質問はしない。

だから、他人から「辞めることを後押しする理由」みたいのを聞きたいのだろう。「もっといい条件のところがある」とか「向いている仕事が他にある」とか。まず、今の自分が「だいぶ辞めるほうに傾いている精神状態にある」というのを認識したほうがいいのだと思う。辞める辞めないを5:5で考えているのではなく、8:2ぐらいには辞めるほうに寄っているということを。

で、わたしに忠告できることがあるかというと、ほとんど何もないんですね。彼と同じ社にいるならともかく、ほぼ初対面ですし。でも二つだけ。

わたしも在職中は辞めたい辞めたいと思ってたことがあります。そのときは「とりあえず三週間我慢してみよう」ということをやっていました。これは期間は人によって違うのでしょうけど。三週間なら堪えられるというのと、仕事がだいたい三週間区切りで片付くから三週間としました。

三週間後に辞めると決めてしまうと、気が楽になってなんとか我慢できる。で、実際に三週間経ってみると時間が問題を解決してくれたり、気持ちが上向いていたりで辞めなくてもいいかという気になっていました。実にいいかげんな人向きの方法です。それに三週間経ってまだどうしても辞めたいなら、そのとき本気で悩んでもいいかもしれません。

もう一つですが、わたしのような馬の骨の言うことは聞かないほうがいいと思います。誰が馬の骨だ。馬の骨に謝って!

人の言う事を聞いて決断して、その決断が原因で後悔することもある。「他にいい会社があるよ」と優しい言葉をかけてもらって辞めても、その会社を探すために就職活動をするのも、新しい環境に馴染むために努力するのも自分であり、その人ではない。転職先が今よりいいところという保証は何もない。

せめて自分の決断で後悔するほうがあきらめがつくのではないか。「あの人の言うことを聞いたから」という理由で後悔するのはバカバカしい。もっとも、自分より明らかに優れた知見を有していて、その人が言うのだから間違いないと信じて決断するなら、それはそれでいいと思う。

ただ、人の言うとおりにやってうまくいって、それで自分の人生だろうかという考え方もある。自分で決断して失敗する自由というのもある。結局、やりたいようにやって自分で責任をとる覚悟があればいいのだろう。

どんな決断をしてもきっと後悔はある。「あのとき辞めていれば」「あのとき辞めなかったなら」「あの人の言うことを聞いたから」「あの人の言うことを聞いていれば」どの後悔なら、自分がきちんと受け入れられるものなのか、それを考えたほうがいい。

▼彼からメールがきた。「辞めるのをやめました」ということだった。急いで辞めることはないんですよね。誰かに話を聞いてもらうだけで少しは気が楽になることもあるし。人の気持ちはその程度のことでも、すぐに変わることがあるのだから。

▼で、ヤツはかなり弱っているとみた。今度会ったときは転職がうまくいく壷やハンコ、数珠を薦めようと思う。アイツ、今弱ってるからなんでも買う。ビジネスチャンスです!

捕まればいいと思うんだ。 

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