特技
▼4月に新しい仕事を請けたのだけど、そこで一緒に仕事をする人を選ばせてもらうのに履歴書をみる機会があった。みんな、ちゃんと特技や資格をもっているのに感心した。思えば特技のない人生だった。なんの取り柄もない人間だった。気づきたくなかった。本当のことなんて知りたくない。死のう。
すぐ死のうとするのはよくない。で、社内にいた人に特技を聞いてみるとTOEICや簿記、プログラムという仕事に使えるものから、楽器、フラダンス、DJ、無線などと幅広かった。みんないろいろやっている。打ちのめされた。何もない人間はいないのか。わたしの劣等感を埋めてくれる人間は。辺りをみまわすと良さそうなのがいた。
女子大生バイトのアタシちゃんならば、たいした特技もあるまい。どうせクレヨンしんちゃんのモノマネ(しかも似てない)とか、そんなものにきまっている。
わたし:趣味や特技って、何かある?
アタシちゃん:特技ってほどじゃないんですけど一応二ヶ国語しゃべれます。えへへ。
わ:ふーん、すごいねー。日本語とどこ?
ア:いや、日本語プラス2です。英仏。
わ:えっ!じゃあ三ヶ国語なんだ。そうなのかー。
ア:あと今、中国語もやってます。驚きました?すごい?
わ:ま、まあね‥‥そんなでもないけどね。そ、そもそも言語というのは現地の人ならみなしゃべれるわけで、それは道具の一つにすぎないから、その道具を使って何をやるかが重要なわけで、道具を手に入れただけで満足してはいけないと思う。
ア:あ、出ましたね。いつもの負け惜しみが。
わ:惜しんでないよ。負けてもないし。いつものって、なんだ。
ア:じゃあ、しゅんさん(わたしのこと)は何か特技あるんですか?
わ:‥‥ない。ないから、なさそうな人に聞いてみたんだけど。まったく君という人間は、つくづく期待はずれだな!
ア:うわー、なんにも特技ないんだー。いるんだ、そういう人ー。生きてていいんだー。
わ:いや、ある!何かあったような気がする‥‥あった。
ア:なに?
わ:朝、目が覚めたときに10分ぐらいの誤差の範囲内で時間がわかる。
ア:‥‥それ特技ですか?
わ:いけない?
ア:いやあ、いけなくはないですけどー。まあ、寝坊しないっていうのは立派だと思いますよ。うん。
わ:いや、寝坊はするよ。
ア:え?正確な時間に起きられるんじゃないんですか?
わ:起きられない。起きたときに時間がわかるだけ。目が覚めて「ん‥‥今、8時半ぐらいか。そうか‥‥。遅刻だー!もう間に合わーん!‥‥今日は休もう」ってなる。
ア:使えないですね。
わ:まあね。むしろ使い方を教えてほしい。
ア:カップラーメン作るときとかいいんじゃないですか?「あ、今3分だ!」って、ちょっと便利。
わ:えーとね、起きたときに何時かわかるだけで、そういうのは駄目なの。
ア:そうなんだ‥‥本当になんにも使えないんですね。
わ:うん。生きててもいい?
ア:うーん‥‥。
わ:考えちゃうんだ。
ア:保留ということで。
わ:保留か。