▼友人夫婦の子ター坊(小学校2年)が自作の歌をご機嫌で歌っていた。
「ハチのように舞い~♪ ハチのように刺す~♪」
どうみてもハチだな、それ。しかし、頭の悪そうな歌を歌わせたら右に出るものはいない。
▼日曜に仕事を請けている会社に行くと、とても静かだった。やはり会社は日曜に限る。月から金て本当に必要なのかと思う。電話がかかってこないので仕事はとてもはかどった。
バイトで出社していた花の女子大生アタシちゃんと昼ごはんに行く。花のて。今どき、花のて。定着するまで言い続ける。
ドトールに行った帰り道、道路を渡った反対の通りにどこかで見たことのある中年の男性が歩いていた。
「しゅんさん(わたしのこと)、あの人‥‥」
「あれ?俳優の○○だよね」
(万が一にもご迷惑がかかるといけませんので名前は伏せます。)
「そうですよね!あたし、ちょっと握手してもらってきます!しゅんさんも、行きませんか?」
「え?‥‥いや、僕はいいかなあ」
「じゃあ、行ってきます!」
彼女は道路を渡って、その俳優のもとへ駆けていった。少し会話をし、握手してもらったあと戻ってきた。
アタシちゃん:「ファンです!」って言って握手してもらっちゃいましたー!
わたし:良かったねえ。
ア:すごく感じ良くて、「これからもよろしくお願いします」って丁寧な人でした。
わ:そうなんだあ。ヤクザ役とかやってるから、ちょっと怖いのかと思ったけどそうでもないんだね。
ア:へー。そんな役やってるんですかー。
わ:あれ、ファンじゃないの?
ア:んー、CMで何回か観たことあるけど、下の名前もよく知らないし。
わ:え?それで握手してもらいに行っちゃうの?
ア:はい!
わ:ふうん‥‥。
ア:あれ?なんか不満そう?
わ:いや、べつに‥‥。
ア:不満そうですよね?
わ:いや、そんなにたいしたファンでもないんだなあって。
ア:ファンじゃないですよ。
わ:ファンじゃないのか‥‥。
ア:しゅんさんはファンなんですか?
わ:ファンていうほどでもないけど、あの人の出てる映画は10本ぐらいは観てるかなあ。ちょっと前にやった役もすごくはまり役だったから、わりと気になってた。あと、DVDも何本か持ってる。
ア:完全にファンじゃないですか。えー、じゃあなんで行かなかったんですか?
わ:いや、こう、なにかすごくミーハーなような。いまだにサインだとか握手だとか、そういう個人を崇拝するような行為というのもちょっとどうなのかという、そもそも読めもしないミミズがのたくったようなわけのわからないサインをありがたがるというのも――。
ア:うらやましかったんですね?
わ:‥‥、うらやましくないこともない。
ア:素直じゃないなあ、もう。
わ:あと、オドオドしたオッサンから「あ‥‥、あ、あ、握手してください!」って言われても、あまりいい気はしないんじゃないかと思って。
ア:そんなことないですよー。気、遣いすぎですって。
わ:気持ち悪いんじゃないかとか、手に汗をかいてないかとか、いろいろ気になる。
ア:逆にしゅんさんが、あの俳優さんの立場だったとして、しゅんさんみたいな人から「握手してください」って言われたらどうですか?
わ:嬉しいよね、どんな人でも。自分の仕事を評価してくれるんだから。
ア:でしょ!
わ:でも、僕みたいな人がオドオドしながら近づいてきて「あ、あ、握手してください!」って言ったら、「あ、俺、刺されるのかな?」って思うかも。
ア:あっはっはっ!そんな~!でも、すごくわかる、それー!
わ:わかんのかよ。
ア:なんだか、最近やってるドラマみたいですね。べムだっけ?本当は心優しいのに人間から嫌われてるバケモンみたいな。
わ:バケモンてなんだ。嫌われてないわ。
ア:心優しいモンスターですね。
わ:‥‥、今日から。
ア:はい?
わ:今日から、おまえのこと、いじめる‥‥。
ア:なんでですかー!