玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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▼N氏宅で打ち合わせ。

打ち合わせの最中に、外からドラのようなものを叩く金属音がする。マンション中に、ごい~ん、ごい~んと音が響き渡っていた。窓から外を見ると、小学生の男子二人が金属板のようなものを木の枝で叩いて喜んでいる。

まったく、子どもというやつはしょうがない。10分ぐらい我慢していたが、まだやっている。N氏が、猫のエサを買いに行くというので、そのときにちょっと注意しておこうということになった。面白そうなので、わたしも付き合って行くことにした。エレベーターで1階に降りると、ドラのような音がいっそう強くなる。

マンションの共用部分の中庭で、その二人は夢中で金属板を叩いて喜んでいる。

「なあ、さっきから何してんの?」と声をかけてみる。

子どもの一人が、金属板を木の枝でコンコンと軽く叩く。

「これな、叩くと、めっちゃいい音する!」

わかってんだけどな!

ちょっとうるさいでー、って言おうと思ったら「やる?」って言われた。なんだか楽しそうである。じゃ、じゃあ、一回だけ、一回だけ叩いてみよう。で、金属板をぶっ叩いたらかなり大きい音で「ごい~ん」って響く。こりゃ、気持ちいい。あまりの大きさに全員でケラケラ笑ってしまった。

子どもたちは「じゃーねー」と、駆けて行った。こちらも手を振って見送った。

ん‥‥?

えっとー、あのー、この板と棒は?

ねー!ちょっとー!これどーすんのー!

N氏と、どーしたもんだかねーと言っていたら、マンションのベランダの窓が開く音がした。そちらを見ると、スキンヘッドの怖そうなおっちゃんがすごい顔でこっちを睨んでいる。

えー!違います!違います!コドモタチガ!アノコドモタチガ!

いや、でも、僕も一回叩いたから、べつに違くないか。

N氏が「おまえ、とりあえず板のそっち持て!」というので、二人してえっちらおっちら金属板を運ぶ。おっちゃんの視界から隠れるところまで必死に運んだ。けっこう重い。30キロぐらいあるのではないか。

そういうわけで、N氏の家にべこべこになった金属板があるわけである。

「おまえ、どーすんだよー。あれ」

「どうしましょうかねえ」

「一回叩くから、なんか俺らが悪いみたいに」

「実際に叩いたから、悪いと思いますけど」

「叩いたの、おまえだけどね」

「なるほど!」

「なるほどって、おかしいだろ。あんなの、ウチに置く場所もないしさあ」

「でも、こうして見ると、現代美術の作品に見えるような。こういうの眺めながら、ウィスキーをキュッと飲むとか」

「作品名は?」

「子どもたちがベコベコにした金属の板」

「そのまんまだろ」

「ねー」

「持って帰れ」

「えー!そんな!」

「持って帰れよう!」

「やだよう!」

二人して金属板を押しつけあう遊びをした。キャイキャイ言って遊びました。