玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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「指紋の神様」の事件簿 塚本宇兵

▼三十年この道一筋、自供に頼る捜査が主流の時代に、三億円事件よど号ハイジャック、オウムなどに携わり、"動かぬ証拠”を武器に事件を解決に導いた鑑識官が語る、指紋の真実。(裏表紙から) 指紋とは何か。ほとんどの人が指紋について考えてみたことはないと思う。指紋の歴史、指紋照合により解決された実際の事件、指紋検出法、指紋照合法、指紋クイズなど、指紋に親しめる一冊。 著者は最初から鑑識課勤務だったわけではなく、警視庁巡査、刑事課を経て配置転換により鑑識課に移っている。当時の鑑識の警察内の地位は低かった。著者の異動の際の嫌々っぷりが面白い。単に指紋だけを取り上げているのではなく、科学技術の発達により鑑識の地位が向上していく様子も興味深い。 テレビドラマなどで指紋の照合シーンが出ることがある。それは左右に指紋の絵があってそれが中央に動いてぴったりと一致するようなやつである。あれね、おかしいと思ってたんですよ。あんなに綺麗な指紋が取れるのかって。一つの指紋は照合用で被疑者に押させたものだから、それは完全なものである。もう一つは現場に残されたものである。現場に残された指紋は完全なものなどほとんどなく、多くは部分の指紋である片鱗指紋であるという。 そもそも対照可能である指紋が印象される確率は1/20程度、つまり20回触って1回指紋が残るかどうからしい。その指紋も不完全なものである。それを指紋の個性である特徴点から照合していく。それは現在は機械化されているものの、職人的な仕事だった。 他にも知らないことだらけである。血痕の下にある指紋や掌紋も状況によっては検出されることや、手袋をして犯行をしたときに残る手袋痕の検出など。手袋をしていればもちろん指紋検出は不可能であるものの、手袋痕というものが残るのは知らなかった。今後は注意しようと思います。みんなも気をつけるように! 三億円事件についても軽くではあるが触れている。当時の捜査対象者だった19歳の少年(事件から5日後に自殺)の指紋は採取されておらず、もしなんらかの方法で指紋が採取されていれば事件は迷宮入りとはならなかったかもしれない。この頃の捜査はまだ今ほど鑑識に力を入れていなかったのだろう。それが実に惜しい。 現場の人の話というのは説得力がある。内容が内容なだけに誰にでも薦めはしないものの、犯罪者は一度は読んでおきたい。捕まる前に読んでおきたい。