玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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褒めるのが下手 とにかく下手

▼ある仕事が一段落し、ご褒美で打ち上げへ。

キャバクラに行くことがご褒美になる人種と、そうでない人種がおりますね。わたしは、そうでない人種である。たいして面白い話もできず針のむしろになりがちである。行く前はワクワクしているが、行った後はだいたい落ち込む。話がかみ合わず、当然モテない。結果、ちょっと自分に失望する。

やがて「もう俗世間とかいい。出家する!仏様にわたしのすべてを捧げる!」などと言い出す。そんなもの捧げられても迷惑である。

燃えるゴミの日にでも出したらどうか。

今回、仕事を発注していただいた会社の方が是非にというので断れず、担当者の方、N氏とわたしの3人でキャバクラに行くことになった。蓋を開けてみればよくある話なのだけど、担当者が接待にかこつけて、自分の馴染みの子に会いたいだけなのだった。

席に座ってしまうと、その担当者は馴染みの子と二人きりで親密そうに話しだした。N氏はやはりキャバクラに不慣れなのか、女の子を相手にデータベースのチューニングの話をしていた。エンジニアの新人研修か。

わたしに付いてくれた子は、とても感じが良かった。で、その子がとても派手なネイルをしていた。表面が盛り上がっていて2Dじゃなくて3Dなのである。

爪にペイントが施してあるのはもちろん、金属の輪っかのようなものがゴテゴテと貼られていて、さらに指先に花が付いている。この花というのも絵ではなくて、小さい薔薇のつぼみのような物が本当に付いている。さらに指の甘皮の部分から、金属のチェーンみたいな物までぶら下がっている。

「これ、かわいいでしょ」と言って、そのゴテゴテに盛られた爪を見せられた。かわいいというか、ちょっと武器っぽい感じもする。

「なんだかデコトラっぽいね」と答えた。(※デコトラとは、装飾が施されたトラックのことである。↓こんな感じの爪なのです。本当だって。)

もちろん、悪意はない。デコトラのように派手でかっこよいねというつもりだった。

彼女は、一瞬ムッとした顔をしたが元の表情にすぐ戻った。でも、それからですね、わたしが何を言っても一切目を合わせず、視線がわたしの額を貫通して後ろにある時計をただ見ている。

あのー、いますよー、僕ここにいますよーというか。返事だけは一応してくれるけど、もうすべてが上の空である。

デコトラというより油絵って言えばよかったのかもしれない。でも彼女は、もう爪の話題はすんなみたいな空気をビシバシ出してきてる感じなので「あのー。いい意味でデコトラね!いい意味で!」というフォローもできない。いい意味のデコトラが、もうよくわかんないけど。

それからのわたしは、ただ蝉の抜け殻のようにそこにおりました。1時間半、うわべだけの会話をしながら店のミラーボールをずっと眺めておりました。

今回も結局あれでしょ、また針のむしろでしょ。ほら、言ったとおりでしょ。

というか、やっぱりあの爪デコトラじゃん!どう見ても。

今に爪に「毘沙門天」とか、わけわかんないシール貼りだす。湘南を爆走し出す。

ほら、もう出家するしかないわー。俗世間うんざりだわー。