玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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変な名前をつけない

▼以前の上司から連絡があり、月曜にお会いすることに。ワクワクして昨晩は眠れなかった。自分の中に、そんな中学生みたいな感情が残っていたなんて驚く。研究、研究で生きてきた方なので、わざわざ会って話をするために時間を割いていただけるとは思わなかった。
何を話したらいいか紙にまとめておこうかなあ。遠足の前の小学生みたいである。

▼そういえば、以前に紙にまとめて失敗したことがある。二十歳ぐらいのときのデートで、あまりにも緊張しすぎ当日喋れなくなると困るので綿密に計画を立てていった。どこの店に行くとか、その程度のメモならいいのだけど、彼女を退屈させないためにする話のタイトルを2、30ほど箇条書きにしていった。わたしは何かと題名を付けるのが好きなので、その紙にも「デート必勝マニュアル」という殺人的に恥ずかしい名前を書いていた。

当日は、トイレにいったときなどにその紙で次に話すことを確認しつつ、それなりにうまくやっていた。で、彼女と歩いているときにポケットからその紙を落としてしまった。彼女は、それに気づきその紙を拾いあげ「お?‥‥おおぅ‥‥」という複雑な声を出した後、紙をたたみ「はい」と笑顔で渡してくれた。

そこでですね「実は緊張して、話すことを紙に書いてきてしまった」と正直に言えば、まだ少しは良かったものの、あまりの恥ずかしさに「ごめん!」と一言いうと、なぜかその場から全速力で逃亡したという。彼女を置き去りにして。

このことを夜中に不意に思い出して、ベッドでのたうち回って
「あーーーーーーー!あれは、なし!」
とか、奇声を発していたわけですが、今もなんかもう具合悪くなってきた。当時、家に帰ってyahoo!で「記憶を消す方法」と検索していたわけだから、かなり頭のかわいそうな人であった。あの人は実に残念な人でした。他人みたいな口ぶりでショックをやわらげるしかないな、もう。

そんなことがあったにも関わらず、彼女とはその後何年か付き合うことになった。彼女は、その後デート必勝マニュアルについて一言も言わなかった。人間ができていらっしゃる。わたしだったら、絶対にからかうと思うけどなあ。からかう自信がある。わたしも、できた人になりたい。