玉川上水日記

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映画「イリュージョニスト」

イリュージョニスト
L'illusionniste / 2010年 / フランス / 監督:シルヴァン・ショメ / ドラマ


【あらすじ】
1950年代、パリ。年老いた手品師であるタチシェフの芸は時代遅れになり、観客にうけなくなっていた。都会を離れ、スコットランドの片田舎で手品を披露するタチシェフ。その手品を見た少女アリスは、タチシェフを魔法使いと思い込み、タチシェフと共に旅をする。

【感想】

絵本のように、とても細かく描きこまれた郷愁を呼び起こす絵。どの場面をとっても、一枚の絵になるような完成度です。

ただ、物語はちょっと悲しい。今は人気が衰えた手品師と、その手品師を魔法使いと思い込んでしまった少女の話。少女は手品師について都会に出る。手品師は少女のために、きれいな服や靴を買ってあげる。やがて少女は都会の若い男に恋をする。役目を終えたと知った手品師は、少女を残して旅に出る。

うーん、欝になりかねない展開。暗い。この映画は、新しい物が古い物にとってかわる、時の流れの残酷さを描いたものだろうか。それは物だけでなく人も同じである。

アリスがはじめて街に来たとき、きれいな洋服を着た女の子に目を引かれる。アリスはやがて、手品師から服を買ってもらい、だんだんと街になじんでくる。アリスの姿を、田舎から出てきたばかりの女の子が憧れの目で見つめる場面がある。それは、ちょっと前のアリスそのものだった。

古くなる、老いる、ということはどうしようもない。老いと死からは誰も逃れられない。それはしばしば人生の悲劇とされる。だが本当にそうなのだろうか。老いた手品師タチシェフも、今はまったく人気がなくなってしまった。だが、彼が若かったとき、彼もまた老いた誰かを追いやってステージに出てきたのかもしれない。新しいものが古いものに取って代わるのは自然なことに見える。

映画の最後に、タチシェフが子供に手品を見せる場面がある。老いた者は舞台を去り、若者が舞台に上がる。その交代場面を目撃したようだった。だが何かさびしい。老いて若者に主役を譲るのは良いが、老いることが無価値でしかないというのは残酷に思う。だが、その残酷さが人生だといえば、そうなのだろうけど。同意しつつも、どうにか抗いたい気持ちがある。何か老いる価値を見つけたいのである。

映画を離れて、老いることの価値を考えてみたが難しい。体力は落ち、容貌も衰える。病気にもなるだろうし、頭の回転も落ちる。良いことは、経験が増えて判断力が増すことぐらいだろうか。老いてもきっと良いことがあるはず、ハッピーエンドがあると考えるのは都合が良いのかもしれない。

映画の最後で、タチシェフが子供に手品を見せたのは、若者と老人の交代を示すだけではなく、老人が得た経験をこれからの者に伝えるという意味もあるのか。そうやって命が受け継がれていくという。それは残酷さではなく、かすかな希望ともいえる。でも、やはりちょっとさびしすぎると思う。もう少し希望があってもいい。時間が経てば、また違う観方に気づくかもしれない。また何年か後に観たい。


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