玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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水二本

▼ペットボトルの水を二本持って、お世話になっている会社へ。隣席のTさんが訊く。「なんで二本も持ってるんですか?水をたくさん飲んでダイエットとか?」

水を二本持っていると、そういうふうに思うのか。なんにでも理由はある。

▼午後、仕事を請けている会社へ。会社の下にある自動販売機でペットボトルを買う。「世界のキッチンから」というシリーズのジュースである。お金を入れてボタンを押したところ、ジュースではなく天然水のペットボトルが出た。

押し間違えたのか検証したいが、もう一度買って水だったら嫌だ。「世界のキッチンから」は隣のボタンでも買えたので、そちらを押して買う。今度はきちんと出てきたが、やはり腑に落ちない。納得しないまま自販機の前でボーっとしていたら、女子大生バイトのあたしちゃんがやってきた。

あたしちゃんは「あたし、コーヒーが好きなんですけど」とか「あたし、映画が好きなんですけど」など、喋り出しに「あたし」が入る。知らんがな、という人である。あたしちゃんが「何買ったんですか?」と訊くので、手にしていた「世界のキッチンから」の美味しさを力説した。「今日はこれを買うために会社に来たのだ」と言った。

あたしちゃんも買う気になったようである。自販機にお金を入れたので、さっきわたしが押し間違えたのではないかと思ったボタンを押してあげた。すると、やはり水が出た。押し間違えではなかった。

「あれ~、ジュースじゃないよう!」などと不満そうなので「ね?」と言った。わたしの「世界のキッチンから」は取り上げられて、水を押し付けられた。結果、水二本を持っている。「世界のキッチンから」は美味しいのだろうか。いつか飲みたい。

▼以前勤めていた会社の上司に会う。会うまでは気が重かった。成長していないのを見透かされるのが怖かった。だが、会ってみたら意外なほど自然に話せた。五時間もしゃべっていた。夢のような楽しい時間は早く過ぎる。

仕事中に彼に言われた言葉の意味を何年かかけて考えて、そのいくつかは理解できた。理解できないものもある。またいろいろと新しいテーマをもらった。これから何年もかけて考えていくのだろう。

彼はまったく変わっておらず「ちゃんとワクワクできるものを見つけているか?」と訊かれた。彼は今、半導体関連の仕事をしているらしい。50歳を超えて、こういうことが言えるのはいい。わたしが彼の年齢に追いつくまで15年ぐらいあるが、先を歩いている人が楽しそうだと「もっと何かすばらしいものを見ることができるかもしれない」と希望が湧く。

などと書くと彼が人格者のようであるが、そんなことはない。ツイッターのサービスが始まったときには「高度な技術を使って、ろくでもないメッセージを送りあうなんて、技術に対する冒涜である!」と怒っていた。「ツイッター社に自爆テロをして俺も死ぬ!」と言っていた。めんどくさい人なのである。

しかし、最近は丸くなったそうで「昔ほど、人に対して『死ね』と思わなくなったねえ」と言っていた。うーん、五十半ばにして、まだそんな中学生みたいなことを。人に対して「死ね」などと思うのは週三回までにしようと約束して別れた。
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