玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

自由研究

プロ野球のヒーローインタビューでよく訊かれる質問がある。「どんな思いで打席に入りましたか?」というもの。あれはなんとかならんものかと思う。選手から感動的な言葉を引き出したいのかもしれないけど。マンネリ化している。

若い選手ほど生真面目に「なにがなんでも打とうと思って」とか「絶対、ランナーを帰そうと思って」などとインタビュアーの期待に添うように答えている。立浪選手が現役だったときは「まあ、あの、毎日のことなんで‥‥」と答えていたのが印象的だった。本当のところ、そんなに何も考えていないのではないか。

わたしにもどうか訊いてほしい。「今日はどんな思いで出社されましたか?」などと。「若手社員が徹夜で資料を作り、上司が先方と話を詰め、みんなが作ってくれたこの機会!命がけで、岩にしがみついてでも契約を取るつもりで出社しました!」と答えるでしょう。

暑苦しいわー。毎日そんななの?

▼友人夫婦の子ター坊(小学4年)と話す。ター坊は、たまった夏休みの日記をまとめて片付けていた。天気の欄を「雨」「雨」「くもり」「雨」などと付けているが、最近はまったく雨など降っていない。これだけ晴れていて、なぜ「雨」と書けるのか不思議だ。

悪事を行うにも、もうちょっと丁寧にやってほしいと思う。こういう人とは、振り込め詐欺は一緒にできない。ターゲットに電話をかけたとき、うっかり本名を名乗る姿が浮かんできた。一軒目で捕まる。

しかし、先生というのは日記の宿題を読むとき、どう考えるのだろう。みな、同じ地域に住んでいるのに天気がバラバラである。説教するのもバカバカしい。「嘘をつくならもっとキチンとした嘘を」と指導するのも変である。程度の低い犯罪者どもを相手にご苦労様です。

さて、去年の夏休みの自由研究で、枯れた朝顔の観察日記をひたすらつけ続けるという行動をとったター坊である。これは児童の心に深刻な問題が‥‥、と心配されるケース。今年は何をやるのか訊いてみた。

「考えてない」と、堂々と言い切った。父親譲りの潔さ。そして唐突に「カレーが食べたい」とつぶやくのだった。父親譲りのポンコツさよ。「いやあ、本当に実に愚かだねえ。頭を使わないために生まれてきましたという。代わりにサッカーボールでも乗っけとく?」とこき下ろした。どうですか、小学4年を全力でバカにできる人間性。どう考えても最悪である。

わたしが提案したのは自由研究のテーマを料理にして「カレーの作り方」をレポートすることだった。宿題が片付き、カレーが食べられる、一石二鳥ではないか。父親も、名案だとうなづいている。しかし、なぜかター坊は乗り気ではなかった。「そーゆーのって『研究』って言うのかなあ‥‥」と腑に落ちない様子。ポンコツだと思ったら、意外とまっとうな指摘を。

いいから早く母親を説得したらどうなんだと、カレーが食べたいだけの父親が促した。ター坊は、洗濯物を干していた母親の所へ行くと、こう言った。

「あのね、しゅんくん(わたしのこと)がカレー食べたいって」

はあああああ!?って、なりましたね。オイ、小僧!どう解釈したら、そうなるのだ。そんなこと言ってないでしょうが。なぜ人の家に来て「カレーが食べたい」などと図々しいことを。あれだな、君は通信簿に「人の話をもっと注意深く聞きましょう」って書かれちゃう子だな。小学4年のときのわたしだな。
JUGEMテーマ:日記・一般