玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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映画「CUT」

CUT
2011年 / 日本 / 監督:アミール・ナデリ / ドラマ


映画を愛しているから、殴られても痛くない!
【あらすじ】
借金返済の為に殴られ屋になります。

【感想】
好きな映画は自分の価値観の中におさまりやすいし理解できる。安全な映画といえるかもしれない。好きだけど安全でつまらないこともある。面白い映画というのは、自分が理解できる価値観の淵をフラフラしている感じ、ちょっとそのラインを飛び出たぐらいが楽しい。

この映画は、もうぶっ飛んじゃってますね。正直なところ何度も観たいという作品ではないのだけど、価値観の境界をぶち壊すようなエネルギーに満ちている。でも、そういう作品こそ観る価値があるのだと思う。まあ、あと変なんですよ、性格とか設定とか。これは映画製作者とかシネフィルのための映画かもしれないなあ。

主人公の秀二(西島秀俊)は狂信的な映画マニア。街中で拡声器を持って市民に呼びかけるのです。「映画は売春じゃない!」とか「映画は芸術であって、けっして金儲けの手段ではなかった!シネコンで上映している映画はたいていクソだ!」とか。

たいていクソって、言っちゃいましたね。たはは。映画愛が高じた故に現状が許せない。かわいさ余って憎さ100倍状態なのでしょう。まあ、市民のほうは「目、合わせないでおこう‥‥」という感じなのだけど。面倒くさい人であるのは間違いない。

秀二は兄からお金を借りて映画を撮っています。しかし、兄は弟のためにした借金が払えずに殺される。借金の返済期限は、あと二週間。ヤクザから、返済のために保険に入って事故死するか?マグロ漁船に乗るか?など脅かされますが「殴られ屋をやります!」と、珍商売の開業を宣言。マグロ漁船でええやないの‥‥。

兄貴が死んだ場所なら痛くない!と、珍妙な理屈をひねりだし、兄が死んだトイレで一発いくらで殴られる人に。もう、本当にひたすら秀二が殴られる映画なのだ。なにこれー。途中でヤクザの親分のほうが困ってしまい「金利、返済期限なしでワシが残額たてかえるよ‥‥。だからもうこんなことやめて!」という、金貸しの風上にも置けぬ提案をしてくるのだけど、それも無視。金は問題じゃないとばかりに殴られ屋を続ける。

これは、金を払って殴っている連中が「映画を駄目にしてしまった人たち」ということなのだろうか。とすると、秀二という存在は、芸術であり娯楽である映画の分身ということになる。だから、他人に金を払ってもらって、殴ってもらうのを免除されても意味がない。金に縛られた、この拷問じみた困難に、秀二(芸術映画)が堪えきることこそ商業映画への勝利なんだということかしら。

西島秀俊の顔は誰だかわからないほど腫れ上がる。血を吐き、歯が抜ける。それでも秀二は好きな映画を数えることで、この映画への暴力から堪え続ける。秀二が一発殴られるごとに、彼の名作映画ベスト100(正確には103)のタイトル、監督名、制作年が表示されます。でも、ちょっとこの演出に笑ってしまった。シネフィルの人には怒られそうだけど、やっぱりこの演出、ちょっと面白いのではないか。

このすさまじい映画だけど、彼にベスト100に選ばれた監督たちはどう評価するのだろうかと気になった。あと、西島さんの腹筋がすごい。それは間違いない。

「CUT」でベスト100に選ばれた名作リストです。


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