玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

歯医者

▼「自分らしく生きてみませんか?」と声を掛けられた。怪しげなセミナーの勧誘である。宗教だろうか。自分らしく生きていないなら、今までわたしは他人らしく生きてきたのだろうか。つまり「三丁目の柴田さんらしく生きてきた」ということもあるのか。三丁目の柴田さんは、猫よけのペットボトルを塀の周りに並べているおばさんである。柴田さんの話、どうでもよくないか。

人はしばしば本当の自分というものを探しに行きたがる。本当の自分は才能に満ち溢れ、輝いていると考えるのかもしれない。だが、本当の自分がとんでもない奴だったらどうだ。冷酷無比、悪逆非道の犯罪者かもしれない。不世出の天才的下着泥棒かもしれない。本当の自分を探すかどうかは考えたほうがいい。とんでもないロクデナシで、こんなはずじゃなかったということになるかも。

「間に合っています」と答えて逃げてきた。これからも本当の自分に向き合わず、自分を見失って生きていこう。理想としては「ここはどこ?わたしは誰?」と、つぶやきながら塀の周りにペットボトルを並べまくる。完全にあちら側に行っている。

▼ここ2,3日、歯がシクシクと痛んでおり歯医者に行った。まだ受付が開いていない。30分ほど早く着いてしまったようだ。外で待っているには暑いし、目の前の喫茶店に入った。

茶店でお茶を飲んでいると美味そうなケーキが目に入る。治療前に歯を磨いてきたのにケーキはないだろうと思う。そういうまっとうな判断はさておき、ケーキを注文していた。人というやつは、実にあてにならないなあと思いながらケーキを食べる。人というやつはなあ、困ったものだよ。

で、美味しいケーキを食べたら歯が痛くないことに気づいた。歯が痛くないのに歯医者に行くのも変だ。けっして、あのゴリラに似ている先生に歯を抜かれるのが怖いからではない。治療代とはべつにバナナを持っていけば優しくしてくれるだろうか。怒られる。手で抜かれるわ。

ケーキを食べ終わったが、受付が開くまで15分ある。歯は現在は痛くない。先生はゴリラに似ている。手土産のバナナも忘れた。さて、この状態で歯医者に行く必要があると思うかね?はっはっは、愚問である。行く必要などない。

歯医者に行ったならまだしも、歯医者に行かなかったという日記を書いてしまった。いいのだろうか、こんなことで。目指す理想の境地は、一日中寝ていて何も考えなかったのに書かれた日記である。それこそ究極。

いよいよ誰も読みに来てくれない。
JUGEMテーマ:日記・一般