玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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お呼ばれ

▼以前の同僚の新婚家庭にお呼ばれした。Tさんという以前の同僚と一緒にお伺いした。Tさんはエンジニアでシステム開発をしていた。わたしはデータを扱う仕事が多かったので、データ抽出で困ったときに、お菓子やコーヒーと引き換えにプログラムを書いてもらうことがあった。本来、指揮系統が別なのでわたしが直接お願いしてはいけないのだけど、お菓子外交によって隠れた国交が確保されていたのだ。秘密貿易である。

彼女はとてもバンカラな性格で、サバサバしている。仕事をしているわたしの背中を勢いよくバシンと叩いて「今夜、(飲みに)いくぞ!」と言う。おっさんである。雰囲気が篠原涼子に似ていたが中身はヘビースモーカーのおっさんであった。コーヒーが切れると猫背になって「もう帰りたい‥‥」と愚痴り出すのだ。

他部署の社員と対立することも多く「で、結局何が言いたいのかな?」とニッコリ微笑む姿を見かけることがよくあった。その冷たい戦争は隣の席で起こっているので、対立に巻き込まれないよう聞えないフリをしているのが常だった。どこか冷めたところがあって、世の中を死ぬまでの暇つぶしと見ているようなシニカルな人格である。一見、ガサツに見えるものの、それは男社会で居場所を確保するための外装にすぎず、本質的には繊細な人だった。

で、久しぶりに会ったのだけど相変わらず口が悪い。わたしは花粉症なのですが「花粉症になる奴は根性が足りてない。たるんでいるから、そうなるんだ」と言う。発想が軍人である。そのくせ自分も調子が悪いのか、クシュンクシュンやり出した。それを指摘すると「あんたに会ったからアレルギーが出たのよ」などと因縁をつける。発想が軍人、かつヤクザ。

招待して頂いた家ではカレーが出た。まあ、その、不思議なことにカレーが美味しくなかったのだ。カレーってだいたい美味しいし、焦がすということはあるかもしれないけど失敗することはないと思う。なんとも不思議な味だった。

家を出た後、しばらくしてTさんが口を開いた。「あれって、なんか変な味‥‥、だった?」と訊かれた。「うん。なんだか、こう、まいった味でしたよね」「ははは。たしかにあれはちょっとまいった味だよね」と笑った。人が好意で出してくれた物を悪く言う人ではないので、その話はそれで終わった。相変わらずサバサバしたおっさんだ。

▼黒犬さんに教えていただいたパズルの動画。不思議。
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