玉川上水日記

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映画「ザ・ファイター」

ザ・ファイター
2010年 / アメリカ / 監督:デヴィッド・O・ラッセル / スポーツ、実話を元にした物語


戦慄の大家族ホラー。家族は絆か呪縛か。
【あらすじ】
家族の期待を一身に背負ってボクシングをします。みんなあれやこれや口を出します。

【感想】ネタバレしてます。
なんの映画と勘違いしたのかわからないんだけど、無人島か何かで殺し合いをする映画なのだと思っていた。観始めて1時間ぐらい経っても殺し合いが始まらない。「まだかなあ、まだかなあ」って、サンタを待つ幼稚園児の純真なまなざしで観てたのに何も起きない。なぜか大家族のゴタゴタが始まっていました。

でも、ある意味、殺し合いよりも怖い映画。何が怖いって家族が怖い。

主役はミッキー(マーク・ウォールバーグ)。大家族の弟である。ボクシング選手としては優れているものの、ここ最近勝ちに恵まれていない。母親のアリス、兄ディッキーを中心として、家族は彼に過剰なまでの期待を掛けている。彼が活躍することで家族が貧困から抜け出せるチャンスがあるのだ。

母親や姉妹はお金、兄はチャンピオンという夢をミッキーに託す。だが母親は金に目がくらみ滅茶苦茶なマッチメイクをするし、兄は麻薬中毒できちんと練習にもこない。そのくせミッキーへの干渉はすさまじい。みんながミッキーに期待して、ぶら下がろうとして、いつかその枝がポキリと折れてしまうんじゃないかと、観ていて不安になるのだ。

ミッキーの性格が優しいので家族との関係を断ち切ることはできない。ガールフレンドのシャーリーン(エイミー・アダムス)は、母と兄と関わらないことを勧める。そのときの家族の反発がものすごい。母親を筆頭に姉妹がシャーリーンの家に押しかける。

左はミッキーのジムで練習を見守る姉妹の皆さま。5人もおるで‥‥。なぜか昼間からたむろしている。働かないのかな‥‥。ミッキー頼みなのかな‥‥。そこんとこも怖いよ。ミッキーをとられることを嫌がって、シャーリーンに「アバズレ!」とか言う。

シャーリーンはシャーリーンで、そんな姉妹を引きずり倒して顔面にパンチを叩き込む。どっちもどっち。ミッキーと付き合うのも命がけである。モンスターマザーと5人姉妹と麻薬中毒の兄がセットでもれなく付いてきます。重すぎるわー。

写真右の女性は母アリス(メリッサ・レオ)。「フローズン・リバー」では、生活苦から犯罪に手を染めるシングルマザー役が印象的でした。今回は息子に執着する母親役がすさまじい。モンスターペアレンツというかモンスターそのもの。父親がいい人というのがこの映画の救いか。

兄ディッキー(クリスチャン・ベイル、写真右、紫の服)は弟ミッキーのコーチ。かつては世界チャンピオンをダウンさせたこともあるボクサーだった。試合では敗れたものの街ではヒーロー扱いされている。今では麻薬中毒だが過去の栄光にすがって生きていた。

クリスチャン・ベイル麻薬中毒者の役作りがすごかった。虚ろな目、ガリガリに痩せた体、円形脱毛症。役のためとはいえ、すごい痩せっぷりでしたね。「ほ、本当におクスリをやっているんじゃ?」と思わせるほど。母親役のメリッサ・レオは、この映画でアカデミー賞助演女優賞クリスチャン・ベイル助演男優賞と、助演がよかったですね。なにせキャラが濃い。

ここまでの話だと家族がまるで重荷にしかなっていないようだけど、マイナスだけでもないんですよね。兄は罪を犯して刑務所にも入りますが、出所後には弟と和解して再びコーチを務めている。家族ともなんとか和解している。

映画の登場人物たちは、家族を断ち切れない絆と信じ込んでいる。それはミッキーも、ディッキーも、母も、姉妹たちもそうである。実際に断ち切れるかどうかは別として、当事者同士がそう信じ込むことで本当にそうなるのかもしれない。それは正の力としても負の力としても働く。結果、ミッキーはチャンピオンを倒し栄光をつかんでサクセスストーリーは完成した。一つ間違えれば家族ごと沈没していそうな話である。実話を元にしているが、どちらにも転びそうな話で、そこに魅力がありますね。

正直なところ、前半の家族のぶら下がり方にげんなりしたものの、その面倒くささを引き受けて関係を続けていこうとするミッキーの姿に感心する。ふつうの人間なら投げ出してしまうんじゃないか。だって母親と姉妹が「ミッキーは、あのアバズレんとこだな!」と、ギャーギャーわめきながら押しかけてくるところなんかホラーだもの。わたしなら死んだフリをする。というか、死ぬ。


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