玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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映画「悪人」

▼わりといろいろなブログを読んでいます。人気のあるところも読みますが、細々とつつましく爪に火をともすようにして暮らす庶民の生活を眺めるのが好きです。ああ、皆がんばっておるのう。ちこうよれ、褒美を取らす!お菓子をあげる!という気分になる。殿様気取りもいいかげんにしろ。

で、いくつかブログを読んでいると、たまに似たタイプのブログに出会うことがある。もちろん、書いている人同士は知り合いではないし、どちらかがどちらかを真似ているわけでもない。ただ、物事の感じ方、趣味嗜好が似ているのである。こういう人たちは、容姿も性格も似ているのだろうか。

自分に似た人が3人はいるという話があるが、まだわたしは会ったことがない。そんで、ネットでわたしのような文を書く人間を探し始めたけど、まだ見つかっていない。そもそも、この日記がアクセス数がないので仮にそういう人がいたとしても見つけるのは難しい気もする。その人も、きっとネットの端っこで細々とやっているだろう。探してどうしようというわけではないのだけど。もし、見かけたら教えてください。また、我こそは似ているという方がいましたらお知らせください。自薦・他薦は問いません。

変な募集をしてしまった。

▼映画「悪人」 / 2010 日

出会い系サイトで出会った二人。土木作業員の祐一(妻夫木聡)と紳士服量販店に勤める光代(深津絵里)、出会って間もないものの二人は強く惹かれあった。しかし、祐一は今、世間を騒がしている保険外交員殺人の犯人は自分であると光代に告白する。

悪人というタイトルであるものの、映画を観た後は「はたしてこの映画に悪人はいたのだろうか。また、悪とは何か」と、思った。絶対的な善悪はなく、それはどの立場から観測するかによるのだろう。殺された保険外交員の女性は、彼女の父親から見れば、わがままではあるがかわいい娘である。だが、主人公の祐一から見れば、金はせびるは、レイプ犯にしたてあげようとするは、とんでもない悪人である。無論、その祐一も彼女から見れば、彼女を殺した悪人に他ならない。

この殺人が起こった理由はいろいろな人間が少しずつの不幸、悪意を持ち寄った結果に見える。出てくる登場人物で本当にとんでもなく悪い「ザ・悪人」みたいな人間は一人もいない。みな、ちょっとずつ荒んでいる。その荒み方が本当にそこら辺にいそうな感じなのである。

わたしは学生時代、人材派遣会社に登録したことがある。その会社で出会った人たちは荒んでいる人が多かった。まだ若いのに「俺の人生もう終わってるよ」と言う人もいたし、世間に対する恨みを口にする人もいた。もちろん世間の派遣会社が全部そうだなどと言うつもりはない。あくまでわたしが所属したところはである。祐一も、まだ若いのにもう世間や自分に失望しているように見える。光代も、会社と自宅を行ったり来たりするだけで、その行き帰りの国道の範囲だけで自分の人生が完結していると嘆いている。

そういう閉塞感の打破、誰か大切な人と繋がりたいという欲求から、出会い系サイトに登録したのかもしれない。誰かに信頼してもらえば、又誰かを信頼することができれば、自分の中で何かが変わる、昨日と今日がまるで変わらない単調な暮らしから抜け出せると思ったのかもしれない。満たされている人は欠落している人を笑うかもしれない。だが、そういった欠落は笑ってよいものではないのだろう。

劇中に、海に面して立っている灯台が出てくる。その灯台について祐一は、そこから先はどこにも行けない行き止まりであると評し、光代はどこにでも行けそうな気がすると言う。どこへも行けないし、どこへでも行ける。そのどちらも正しい。好きなように考えればいい。祐一がもっと早く光代に出会えたなら、どこへでも行けたことに気づいただろう。

社会への不信感、どうしようもない孤独感、単調な繰り返しの日、特に経済が落ち込んでいるときはこういった状況はそこかしこに表れる。もっと周囲の人に優しくすることができれば、それだけでずいぶん変わるし楽になれるのにと、ぼんやり思った。ただ、苦しい状況の人に何を言っても、なかなか届かないのかもしれない。だが、そうやって絶望しながら、何かを恨みながら、生きていくのはあまりにも惜しい。たしかに生きていくのにいろいろ問題は多いが、投げ捨てるほど悪い物でもないと思う。切羽詰ってもがこうがどうしようが80ぐらいになれば、だいたい終わってる。

▼あれ、まったく映画の感想になってないですね。まあ、あんまりいろいろ思い詰めんなってことでしょうか。

▼それぞれの役者の演技が本当に素晴らしいです。もう、憂鬱になる!それは名演技の結果だからしかたないが。

主演の二人がいいのはもちろんだけど、特に、柄本明樹木希林が良かった。

みんなちょっとずつ悪い。でも、なんにも悪くない人なんてどこにもいないんだよねー。