玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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会社

▼仕事で、80代のやや年配の方と話す機会がある。その方から「おまえは、絶望したことがないから駄目だ」と、よく言われる。なんとなく、言わんとしていることはわかる気がする。その淵まで行って、はじめて見えてくるものだとか、人の情けだとか、わかるものがあるのだろうけど。

よーし、がんばって明日からたくさん絶望しちゃうぞ!と、お手軽に絶望できないから難しい。あと、絶望未体験以外に駄目なところがたくさんあるんだけど。盛りだくさんである。そこに絶望すべきではないだろうか。

▼母は、もう同じ職場で20年ほど勤めている。母の話によれば、たいして売り上げも上がらず、IT化の波なども関係なく、PCよりもソロバンや電卓が活躍するような古い職場である。従業員も古くからの人が多く、長い人は40年ぐらいいるらしい。平均年齢が65歳ぐらいの会社なので、みな、のんびりと仕事をしている。急ごうにも急げない。

母の同僚で、ほとんど同じ時期に入社し、もう20年ぐらいの付き合いになる親しい女性がいる。彼女は、二年前にガンの手術をした。胃の一部を摘出したものの経過は良く、術後一年ほどしてまた仕事に復帰した。最近、ガンが再発し、また抗ガン剤を飲みだした。そのせいか、体調を崩すことが多いらしい。仕事を休む回数も増えてきた。

昨日、その同僚が会社に連絡をしてきた。その電話を母が取った。彼女は、病欠の連絡と今後のことについて話した。

抗ガン剤の副作用で体調が安定せず、このまま出たり出なかったりだと周りに申し訳ない。周りに負担になっていると社長が思ったら、そのときははっきり辞めるように言ってほしい。そう、社長に伝えてほしいという内容だった。

母は、その話を社長にした。社長は「家で病気と向き合っていると、それだけで苦しい。たまに会社に来れば、それが生き甲斐になる。このままでいいじゃない」と言ったそうである。

いい社長だなと思った。経営者としてみれば駄目という人もいるだろう。仕事の量も減っているというし、人件費から考えれば辞めてもらうのが正解である。この会社はたしかに貧乏会社で、給料も安い。いまだにPCも導入せず、仕事の効率もそんなに良くはないという。でも、従業員をリストラしたことはない。売り上げはたいしたことがないといっても、どうにか会社を存続できている。立派な会社だと思います。

会社の形は、一つではない。こうしなくちゃいけないなんて、そんなものは何もない。