玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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屏風の虎

▼友人宅にご機嫌伺い。

友人夫婦の子、ター坊(小学校低学年)と遊ぶ。

本を読んでほしいというので、手渡された一休さんを読む。

子どもの頃に読んだ屏風の虎という作品だが、あらためて読んで驚いた。

有名な話なので知っている人も多いと思うが、かいつまんでいうと以下のようなもの。

殿様は、一休さんのとんちの評判を聞いて城に招く。殿様の話では、毎晩虎が屏風から出て悪さをするらしい。その屏風には恐ろしい虎の絵が描いてある。殿様に「虎を懲らしめてほしい」と頼まれた一休さんは快諾。

「まず、虎を捕まえる縄を用意してください」

殿様は家臣に命じ、縄を用意させる。

「それではお殿様。わたしが虎を捕まえますので、虎を屏風の後ろから追い出してください」

「なに?一休、屏風に描いた虎を追い出せるわけないだろう」

「ならば、虎は出てこないのですね。安心致しました。出てこない虎を捕まえることはできません」

「むむ。あっぱれ!

一休に褒美をとらせるがよい!ワッハッハ!」

めでたしめでたし。

子ども向けにしては複雑な話である。

思わず、ター坊に「ちょっとそこに座りなさい。今からこの話の意味を伝えるのでよく聞きなさい」と言っていた。

権力を持つと、人は人をためす。そんな権力者の特性がよく描かれている。

殿様もバカではないので、虎が絵から出てこないことなどわかっている。わかっていて、知恵者の一休に「申し訳ございません。虎は捕まえられません」と土下座させたくてしかたがない。

ところが一休は、態度のでかい新入社員みたいに「課長がやれっていうからやりますけどぉ、でも、最初に虎は出してくれるんですよね?そしたら、捕まえるんで」みたいなことを言う。

「いや、虎を出すところからオマエの仕事じゃん」そう殿様は言いたい。上司が虎を出せといえば虎を出す。虎が出せなければ、猫でもタイガーマスクでも連れてくるのが会社員の務め。そう言いたい。

困った殿様は、屏風から虎を出せないと言う。それを聞いた一休は、

「あれ?課長、虎、出せないんですよね?じゃ、捕まえようないじゃん。はい、仕事終わり!俺ちゃん天才!」などと言う。

本来なら即刻打ち首にしてやりたいのだが、子ども相手に「たわけもの!」と怒鳴りつけるのも、家臣の手前みっともない。

そこであえて鷹揚なフリをして「あっぱれ!一休に褒美をとらせるがよい!」となるのである。実は内心はらわた煮えくりかえっており、次の人事異動のときは、聞いたこともないような国に左遷してやろうと考えている。まったく逆のことを考えていながら褒美を出す。

よく人間の本質を捉えている。

しかし、この話。最後がもったいない。

「褒美を取らせる」そう言った殿様は、一休さんに金銀財宝の描かれた一枚の紙を渡した。

「さあ、好きなだけ取るがよい」とすれば、面白い。

ター坊に、以上のような話をすると「なんでそんな変な話にしちゃうの?それ嘘なんだよね?」と、不思議そうに言う。

そんな澄んだ目でわたしを見るな。

ちょっとふざけただけじゃないか。

最近、君には嘘があんまり通じなくなってしまった。成長したなあ。

もっと全身全霊を込めてだまそうと思う。

友人宅を出るときにター坊がわたしの手を、両手で包み込むように握った。

「今度は、いつ来てくれるの?」

その言葉を聞いて、なぜ男はキャバクラにはまるのかわかった気がする。

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